フランス製の高級なべ、「ル・クルーゼ」が売れている。料理が美味しく仕上がることやカラフルなデザインが人気の理由といわれるが、なべ本体とフタを合わせて4kg近い重さ があり、2万円以上するなべが、どうしてこんなに売れるのか。
ブームの火付け役は光文社の主婦向け生活雑誌『Mart』だといわれる 。この雑誌はイケアやコストコ、食べるラー油、ホームベーカリーなど数々の流行を生み出してきた。そのひとつがル・クルーゼの高級なべである。
『Mart』では2005年頃からたびたび、ル・クルーゼを特集してきた。2013年3月号では「ル・クルーゼの置き方『みんなの法則』調べました!」と題し、読者が同ブランドのなべや食器をどのように「飾っているか」が特集されている。またル・クルーゼジャポンのホームページでは、なべを「見せて収納」するためのスタンド まで売られている。フェイスブックの「いいね!」は4万以上。ミクシィにも複数のコミュニティがあり、のべ会員数は4万人以上にのぼる。主婦たちはこうしたSNS上で、コレクションしたなべや食器の写真、テーブルコーディネートなどの情報をやり取りしている。通常のなべや食器では考えられないほどの規模でコミュニケーションが行われているのだ。
このように同ブランドの商品は、「使う」だけではなく「見せる」、そして「商品の情報を交換する」ことに主眼が置かれている。『Mart』の編集長によれば、ル・クルーゼのグッズを見せ合ったり使い方を伝え合ったりすることが主婦同士の重要なコミュニケーションになっている という。
これまで調理器具は「使っていない時はしまう」のが当たり前で、人に見せる必要はなかった。ところがここ十数年でオープンキッチンが主流になると、台所にも「他人の目を意識した演出」が求められるようになる。ル・クルーゼを買えば、沢山の色やデザインによって「自分らしいキッチン」が演出できる。だからこそ高くても売れるし、贈り物にも喜ばれる。カラフルな高級なべが売れる理由は、「キッチンを舞台にした空間演出」と「主婦同士のコミュニケーション」にあるといえそうだ。