世界中の人々の暮らしを一変させたコロナ禍もようやく落ち着きを見せ始め、今年の春は久し振りに、巣立ちや門出を祝う明るいムードが漂っている。
新型コロナウイルスの流行以降、入社式の開催を見合わせていた企業や、リモートなどで簡素に済ませる企業も多かったが、今年はそれぞれに対策を取りながらも、コロナ禍以前に近いかたちで実施している企業も多いようだ。中でも、事業の内容に沿ったユニークな入社式に注目が集まっている。
例えば、アミューズメントや観光事業などを展開する株式会社フジコーの今年の入社式は、同社が運営する「三島スカイウォーク」で実施。「三島スカイウォーク」といえば、日本最長400mの人道吊橋だ。そんなところで入社式が開かれた理由は、日本一の吊り橋に向かって一気に滑り降りる往復560mのロングジップスライドだ。新入社員たちはスーツ姿にヘルメットと安全ベルトを装着し、入社後の意気込みを語った後、これを一気に滑り降りる。現場を知ると共に、社会に飛び出す気持ちとリンクすると新入社員にも好評だったようだ。
また、Web制作などを手掛ける株式会社カヤックの入社式は、新入社員たちが会場に人力車に乗って登場するところから始まる。そして式が中盤に差し掛かると、なんと新入社員たちが「退職届」を読み始めるのだ。この試みは2019年度から続けられているそうで、入社時に終わりを意識することで、より濃密な社会人生活を送って欲しいという願いが込められているという。
さらに木造注文住宅を手がける株式会社AQ Group(アキュラホームグループ)では、今年も同社伝統の「カンナ削り入社式」が開催された。大工出身で「カンナ社長」の異名をもつ宮沢俊哉社長が自ら指導し、大工仕事の象徴とも言うべき「カンナ削り」を体験する。今年で18年目を迎える、同社の名物入社式だ。同社の社員は決して現場の職人ばかりではないが、たとえ営業職や事務職の社員であったとしても、ものづくりの楽しさや喜びを知り、お客様の喜びを自身の喜びに感じる「匠の心」を持って欲しいという、宮沢社長の思いが込められているという。そんな熱意を反映してか、同社はコロナ禍中でも大幅な増益を果たしている。
コロナ禍で落ち込んでいた求人倍率も少しずつではあるものの回復傾向にあるようで、リクルートワークス研究所の調査によると2023年3月卒業予定の大学生・大学院生対象の大学求人倍率は前年の1.58倍となっている。その一方で、厚生労働省の調査では新入社員の3年以内の離職率は30%以上と非常に高い。入社後に「こんな会社だとは思わなかった」 と後悔しないためにも、企業の社風や特色が現れる入社式の様子は参考になるのではないだろうか。また、ユニークな入社式を開催している企業は上記三社のように、コロナ禍でも業績が好調な企業が多いことも共通点のひとつだ。(編集担当:今井慎太郎)