今、世界中で電気自動車(EV)の販売台数が急成長している。調査会社のデータを基に米国のウォール・ストリート・ジャーナルが報じたところによると、2022年は欧州と中国を中心に販売台数が大幅に伸び、ついに自動車販売全体の10%に達したという。欧州自動車工業会(ACEA)が4月に発表した2023年第1四半期(1~3月)の欧州市場におけるEV車の販売実績では、前年比33.2%増となる過去最高の43万3298台を記録している。中でも欧州最大の自動車市場であるドイツでは、EVは昨年の新車生産台数の25%を占め、12月には同国内での販売台数が内燃エンジン車を上回ったというから驚きだ。
一方、自動車大国といわれた日本では国内販売の約1%、米国もEVの普及率は約5%程度に過ぎない。とはいえ米国でも、カリフォルニア州が2035年からハイブリッド車の新車販売を禁止する規制案を決定するなど、EV化に向けた動きは着実に始まっているとみていいだろう。現状、残念ながら日本だけが世界の大きな流れに乗り遅れている感は否めない。
しかし、電気自動車を支える自動車部品の分野においては、日本は他国に後れをとるどころか、一歩リードしている。例えば、EV車の航続距離伸長やバッテリーサイズ削減などに深く関わるパワーエレクトロニクスのキーテクノロジーとして注目されているSiC(炭化ケイ素)パワーデバイスでは、日本の電子部品企業のロームが、この分野におけるリーディングカンパニーとして大きなアドバンテージを持っている。
2023年6月19日、ロームは最新のドライブ技術や電動化ソリューションの国際的な大手メーカーであるヴィテスコ・テクノロジーズ(以下、ヴィテスコ)と、SiCパワーデバイスに関する長期供給パートナーシップ契約を締結。その取引額は2024年から2030年までの期間で1300億円以上にのぼる。両社は2020年に「電気自動車向けパワーエレクトロニクスにおける開発パートナーシップ」を締結しており、電気自動車に最適なSiCパワーデバイス及びSiC搭載インバータの開発協議を行ってきた。今回の長期供給パートナーシップ契約もそれに基づくものだ。ヴィテスコは、共同開発の最初の成果として、ロームのSiCチップを搭載した先進的なインバータの供給を、早くも2024年から開始する予定で、既に大手2社の電気自動車への採用が決まっているという。これは当初目標のスケジュールを前倒しするものとなる。
少し前までは、SiCはSiに代わる次世代半導体と呼ばれていたが、最近はその冠をつけられることも少なくなってきた。つまり、もう「次世代」のものではないということだ。電気自動車市場の急成長とともに、そのインバータ開発に欠かせない非常に重要なアイテムとして、更なる需要が見込めるだろう。SiCパワーデバイスの中でも、とくにロームのSiCチップは高電圧に対応し、電気エネルギーの有効活用を飛躍的に高める製品として知られている。ヴィテスコは今回の長期供給パートナーシップ契約によって、電気自動車の開発において戦略的かつ重要なアイテムである、優れたSiCチップのキャパシティを確保することとなる。両社の今後の躍進に期待したい。(編集担当:藤原伊織)