今回のニュースのポイント
創薬向け「秘匿AI基盤」の開発へ:日立製作所は2026年4月16日、機密性の高い研究データとAIモデルを互いに開示することなく安全に連携できる「秘匿AI基盤」の開発を発表しました。
2026年度のサービス提供開始を目指す:AI創薬スタートアップのMOLCUREと協創し、2026年度から「OI(オープンイノベーション)創薬基盤サービス」の提供開始を目指します。
「見せずに使う」独自の秘匿情報管理技術:データベース内の情報を乱数化したまま検索・計算できる暗号化技術と、プロセッサ内に隔離された安全な実行環境「TEE」を組み合わせています。
急成長するAI創薬市場のボトルネックを解消:2031年に193億ドル超へと拡大が予測される市場において、機密・知財の壁によるデータ共有の停滞打破を目指します。
AIの活用が進む一方で、その限界も見え始めています。特に高度な知財の塊である創薬分野では、データの扱いが大きな壁となっていました。日立製作所は2026年4月16日、この“データ共有の壁”を突破する「秘匿AI基盤」を開発し、AI創薬スタートアップのMOLCUREと協創しながら、2026年度から本基盤をベースにしたサービスの提供開始を目指すと発表しました。
日立はグローバルインフォメーションの調査を引用し、AI創薬の世界市場が2023年の約23億ドルから2031年には約193億ドル超まで、年平均30%を超える高い水準で成長するとの展望を示しています。しかし、現場ではデータ取り扱いのジレンマがボトルネックとなっています。製薬企業にとって「創薬目標」や「実験データ」などは競争力の源泉であり、最高レベルの機密情報です。一方で、スタートアップ側にとってもAIモデルやアルゴリズム自体が重要な知的財産であり、外部への開示は致命的なリスクになりかねません。このように双方が「手の内」を見せたくないという構図が、これまで大規模なデータ共有や本格的な共同研究を阻む大きな壁となってきました。
これまでデータを共有するには、厳格な秘密保持契約(NDA)を結んだ上でデータを匿名化して提供するか、物理的に隔離された専用サーバーで個別に学習させる手法が一般的でした。しかし、マスキングを強めて秘匿性を高めるほどAIの学習精度が落ちるというジレンマが発生します 。結果として、本当に重要なデータが持ち寄られず、AIのポテンシャルが十分発揮されない状況が続いていました。
日立が開発する「秘匿AI基盤」は、データベース内の情報を乱数化したまま検索処理できる「検索可能暗号化技術」と、CPU/GPU内にハードウェア的に隔離された安全な実行環境であるTEE(Trusted Execution Environment)を組み合わせた秘匿情報管理技術を基礎としています。日立によれば、データを高度に暗号化したまま扱うため、万が一データが漏洩しても元の情報を復元できないレベルの堅牢性を備えているといいます。
これにより、製薬企業が複数のスタートアップと同時に共同研究を進める場合でも、データやモデルの混在、他社の知的財産が意図せず成果物に混入したりするリスクを抑えながら、お互いの中身を見せないまま共通の計算環境で学習・推論を実行することが可能になります。
日立は、将来的に製薬企業やアカデミア、医薬品開発受託機関、バイオテック企業などが参加するコンソーシアム型のエコシステムへ発展させ、日立の産業向け次世代ソリューション群「HMAX Industry」を支える中核サービスとして展開することも構想しています。AIの進展は、もはやアルゴリズム単体ではなく、「データをいかに安全に持ち寄り、連携させるか」という基盤技術と信頼の設計に左右される段階に入っています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













