今回のニュースのポイント
原子力規制庁は、公益財団法人原子力安全技術センターおよびKDDI株式会社と連携し、高耐久スマートフォンを活用した放射線測定データ伝送システムの実証実験を本格化させます。令和6年の能登半島地震において通信障害や道路寸断によるデータ欠測が大きな課題となったことを受け、災害時にも情報網を途切れさせない強靭な仕組みづくりが求められていました。今回の取り組みでは、地上通信網と衛星通信を自動で切り替える技術を導入し、過酷な環境下でも安定してデータを集約できる、小型で機動性の高い分散型の次世代型モニタリング体制の構築を目指します。
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地震や集中豪雨などの大規模な自然災害が発生した際、救助活動の初動や迅速な避難判断、そして正確な状況把握を行う上で、現場の状況を示す「情報(データ)」の確保は、国民の安全を守る重要な基盤となります。しかし、どれほど高度な測定器を各地に配置していても、そのデータを中央へ届けるための通信網や電力が途絶してしまえば、情報は完全に遮断されてしまいます。災害時における情報の空白をいかに防ぐかという課題に対し、従来の固定設備を機動的に補完し、多層化する防災インフラの新しいあり方が、身近な最先端技術の融合によって具現化しつつあります。
この構造転換の背景となったのが、令和6年1月に発生した能登半島地震における教訓です。当時は激しい地震によって道路が寸断され、大規模な停電や通信障害が広範囲にわたって同時多発的に発生しました。その結果、周辺の放射線量を常時観測する重要な基盤インフラである固定型のモニタリングポストの一部からデータが届かなくなる欠測事態が発生し、移動の制限や地上インフラの損壊によって早期の復旧や代替機の搬入が困難を極めるという構造的課題が浮き彫りとなりました。強固に固定された拠点だけに通信を一元依存するシステムは、複合的な障害が発生した際にデータ途絶のリスクを抱えるという課題が改めて示された形です。
こうした課題に対し、原子力規制庁が民間大手キャリアなどと連携して実証実験を進めているのが、スマートフォンと衛星通信を組み合わせた新たなデータ伝送システムです。このシステムでは、測定器(サーベイメータ)が取得した放射線データをBluetooth経由でスマートフォンに集約します。最大の特徴は、従来の地上通信網(LTE)が圏外や通信障害に陥った場合であっても、端末が自律的に人工衛星(au Starlink Direct)を用いたショートメッセージサービス(SMS)の伝送方式へと自動的に切り替える点にあります。身近な携帯端末がデータ伝送の中継拠点として機能することで、孤立地域でも情報共有を維持する仕組みを目指しています。
この技術がもたらす本質的な価値は、従来の堅牢な固定設備を廃止することではなく、それらをいかに効率的に「補完・多層化」できるかという点にあります。何があっても常時観測を続ける固定型モニタリングポストは今後も防災を支える重要な基盤です。しかし、想定を超える自然の猛威によって万が一その一部が機能停止に追い込まれた際、即座に別の手段でバックアップできる「柔軟な分散型設備」を組み合わせておくことが真の強靭化に繋がります。今回の次世代監視システムは、総重量を従来の可搬型設備の10分の1(約45kgから約4kg)にまで大幅な軽量化を実現しており、人力による迅速な運搬と容易な緊急配備を可能にしています。
気候変動に伴う災害の激甚化や、巨大地震のリスクが常に取り沙汰される現代の日本経済および社会運営において、インフラのレジリエンス(強靭化)とは、災害そのものを完全に防ぐことではなく、不測の事態が発生した直後であっても社会の重要機能を可能な限り維持する仕組みを整えることに他なりません。固定型設備、容易に運搬可能な可搬型設備、非常時にも活用できる民間衛星通信ネットワークという異なるアセットを巧みに組み合わせ、インフラを多層化するアプローチは、限られた予算と人手の中で地域社会の安全網を確実に維持するための、極めて合理的で持続可能な次世代の判断軸を示しています。 (編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













