AI時代の電力課題に一手 稼働中データセンターの冷却最適化が進む

2026年07月09日 14:54

NVIDIA (1)

AI需要の拡大で重要性が高まるデータセンター。三菱重工業は稼働中設備の冷却効率向上に向けた運用最適化技術を実証した(画像はイメージ)

今回のニュースのポイント

三菱重工業は、富士通が運営する「富士通 明石データセンター」において、稼働中の設備を用いた冷却エネルギー削減と電力使用効率(PUE)の改善を実証したと発表しました。複数のメーカーの設備が混在する既存の環境をシステム全体で統合的に制御することにより、冷却エネルギーを2.3%削減し、データセンター全体へ適用した場合には最大7.6%のエネルギー削減効果が見込めることを確認しました。AIの利用拡大に伴いデータセンターの需要が世界的に急増するなか、新設だけでなく既存設備の効率化も重要な課題となっています。

本文
 生成AIの急速な普及やクラウドサービスの拡大に伴い、世界規模でデータセンターの需要が急増しています。しかし、それに伴う電力消費量の急速な増加は、運用コストの上昇や環境負荷の観点から大きな社会課題となっています。AI社会を維持・発展させるためには、IT機器の計算能力を向上させるだけでなく、それらを支えるデータセンター全体のエネルギー効率をいかに高めるかという「インフラの持続可能性」が極めて重要な意味を持ちます。

 こうした背景のなか、三菱重工業が2026年7月9日に発表した実証成果は、既存のインフラを有効活用する現実的な解として注目されます。同社は富士通の「富士通 明石データセンター」において、実際に稼働を止めることなく冷却システムの運用最適化を検証しました。最大の特徴は、複数のメーカーや提供元の設備が混在する「マルチベンダー構成」の既存環境を対象とした点です。最先端の新設データセンターを建てるアプローチとは異なり、国内に数多く存在する「すでに動いている既存施設」の省エネ化において、実効性のあるデータを示した意義は大きいと言えます。

 データセンターにおいて最大の電力消費源となっているのがIT機器の冷却システムであり、サーバーなどを除く電力使用量の60%以上を占めるとされています。従来の運用では、冷却塔やターボ冷凍機といった全体を冷やす「共通設備」と、個別のサーバールームに置かれる「空調機」が、それぞれ個別に部分最適化されて制御されていました。また、サーバーの安定稼働を最優先するため、安全側に余裕を持たせた冷却運用が必要となり、システム全体での最適なエネルギー制御との両立が課題となっていました。今回の実証では、同社の総合研究所が開発した仕組みを用い、個別の設備ごとではなく、冷却システム全体を統合的にシミュレーション・制御するアプローチをとりました。

 具体的なプロセスとしては、サーバールーム内の温度のばらつきがある場所を特定し、空調機の風量や気流を細かく調整しました。これにより、ルーム内の温度のばらつきを2℃縮小することに成功し、冷却システム全体を効率的に運転できる範囲が拡大しました。その結果、冷却システムをまとめて制御することが可能となり、冷却水を適切な温度に保つ統合的な制御が実現したため、冷却システム全体で2.3%のエネルギー削減を達成したほか、冷凍機のエネルギー効率(COP)も1.2ポイント以上向上しました。さらに、今回の実証は複数あるサーバールームのうち1室での検証に留まりますが、施設全体にこの統合的な制御を適用した場合には、冷却システム全体で最大7.6%のエネルギー削減効果が見込まれる試算も公表されています。年中無休で大量の電力を消費し続ける巨大施設にとって、この数%の削減がもたらす累積的なコスト削減と電力負荷軽減のインパクトは無視できない規模となります。

 今後のデータセンターを巡るエネルギー問題は、発電能力の強化や再生可能エネルギーの導入、送電網の整備といった「作る側・送る側」の対策だけでは根本的な解決に至りません。需要が伸び続けることを前提としたうえで、電力を「使う側」の無駄を徹底的に削ぎ落とす技術が必要不可欠です。

 AIモデルの開発や先端半導体の設計といった領域では米国を中心とする海外企業が市場をリードする場面が目立ちますが、今回のような冷却効率の向上、微細な電力管理、設備の統合制御といった省エネ・運用改善技術は、日本の製造業やインフラ企業が長年培ってきた得意分野です。OpenAIによる人間とAIの接点づくり、NVIDIAによるエージェント稼働インフラの整備、Anthropicによる実務協働スタイルの提示といった「AIの高度化」が進むその裏側で、日立製作所やNECが進める産業分野でのAI活用、そして三菱重工業のような企業による設備・運用インフラ技術が、AI時代の持続可能な社会基盤を支える重要な輪として存在感を発揮しています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)