防衛財源確保へ新税創設 防衛特別所得税が示す安全保障と税制の転換

2026年07月10日 12:59

防衛省1

防衛力強化に向けた安定財源の確保を目的に、防衛特別所得税の創設が進む。安全保障環境の変化を背景に、防衛政策と税制のあり方が新たな局面を迎えている。

今回のニュースのポイント

防衛力強化に必要な安定財源を確保するため、新たに防衛特別所得税が創設されます。所得税額に対して1%を課す仕組みですが、同時に復興特別所得税の税率を1%引き下げることで、導入時の家計負担増を抑える設計となっています。一方、復興財源確保のため課税期間は延長されます。安全保障環境の変化を背景に、防衛費と税負担のあり方が今後の重要な論点になります。

本文
 「所得税法等の一部を改正する法律」は2026年3月31日に成立し、同日に公布されました。今回の税制改正において、日本の財政・安全保障のあり方を大きく動かす論点として浮上しているのが、防衛力の抜本的強化に伴う安定的な財源確保のスキームです。緊迫化する国際情勢や日本を取り巻く安全保障環境の厳しさを背景に、防衛装備品の高度化や技術開発費の増大は避けられない局面を迎えています。これに伴い、従来の枠組みを越えた防衛費の拡大をどのように安定的、持続的に支えていくかという、税制と安全保障が直結する新たな制度設計が導入されることとなりました。

 財源確保の中核を担うのが、令和9年1月より施行される「防衛特別所得税」の創設です。この制度は、納税者が納付すべき「基準所得税額」に対して1%の税率を上乗せして課する付加税の形をとります。ここで重要なのは、個人の「所得(給与や事業収入の総額)」そのものに対して1%が課税されるわけではないという点です。あくまで、各種控除などを差し引いた後に国税として計算された「所得税額」を課税標準とし、その確定した税額に対して1%を乗じる仕組みとなっています。実務上の計算ベースを所得税額に置くことで、既存の徴収インフラを活かした確実な財源確保を狙っています。

 新税の創設に伴い、読者や家計が最も懸念する負担増への配慮として、今回の改正では精緻なバランス調整が施されています。現下の物価高や家計を取り巻く厳しい状況を勘案し、足元での急激な税負担感の増加を防ぐため、東日本大震災の復興を支えてきた「復興特別所得税」の税率が同時に引き下げられます。具体的には、復興特別所得税の源泉徴収税率を従来の2.1%から1.1%へと1%引き下げ、そこへ防衛特別所得税の1%を上乗せする形をとります。これにより、防衛特別所得税と復興特別所得税を合わせた付加税部分については現行水準となるよう調整され、導入初期における家計への直接的な金銭負担増を抑制する仕組みが作られました。

 一方、この相殺スキームによって「復興事業のための財源が不足するのではないか」という疑問も生じます。この課題に対して財務省は、復興特別所得税の課税期間を「10年間延長」するという時間軸の変更によって対応しています。当初予定されていた課税期限を令和29年まで延長することにより、復興事業の着実な実施に影響を与えないよう、復興財源の総額を確実に確保する担保を講じました。つまり、単年の負担額を抑える代わりに負担期間を長期化させることで、「防衛力強化の即応性」と「震災復興への継続的責任」を財政上両立させるための調整策と言えます。

 マクロ経済の視点から見れば、今回の改正は日本の国家予算における防衛費の位置づけが、有事や必要時にその都度予算を確保する「一時的な支出」の時代から、装備の維持管理や高度化、サイバー・宇宙分野、共同研究開発などを恒常的に支え続ける「継続的財源」の時代へと移行しつつあることを示しています。防衛費の増額分を単なる国債発行などの財源措置のみに頼るのではなく、税制という形で恒久的な安定財源の骨格を明示したことは、国際的な信用維持や財政健全化の観点からも一定の政策的意志を内包しています。

 税金が社会保障やインフラ維持だけでなく、安全保障政策そのものを下支えする直接的な手段となった現在、税制と国家防衛の距離はかつてないほど接近しています。家計負担の急変動への配慮、復興事業への確たる責任、そして防衛力の抜本的強化。これら三つの重要課題を同時に調停しようとする試みは、今後の国民負担率の議論や、国の持続可能性を巡る大きな政策課題を形成していくことになります。今回の防衛特別所得税の導入を契機に、安全保障環境の変化に見合った国民負担の適正な水準とは何かを、社会全体で慎重に見極める局面が続きそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)