今回のニュースのポイント
訪日外国人旅行者の急増や旅行消費額の拡大に伴い、観光政策では地域を一つの経営体として捉える「観光地経営」の重要性が高まっています。その司令塔として位置付けられるのが「DMO(観光地域づくり法人)」です。単に観光パンフレットを作成して観光客を呼び込む組織ではなく、データの収集・分析、戦略策定、地域の事業者や住民との合意形成などを担います。気仙沼、鹿角、由布、関門海峡の事例から、DMOが推進する地域経営の実体と役割を読み解きます。
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観光地を訪れると、観光案内所やイベントなどで「DMO」という言葉を目にする機会が増えています。国が進める第5次観光立国推進基本計画でも「観光地経営の司令塔」として位置付けられていますが、従来の「観光協会」や自治体の観光課と何が違うのか、その具体的な役割は一般には十分に知られていません。
■そもそも「DMO」とは何なのか
DMOとは「Destination Management / Marketing Organization(観光地域づくり法人)」の頭文字を取った略称です。観光庁では「地域の多様な関係者と協働し、科学的アプローチを取り入れた観光地域づくりの司令塔となる法人」と定義しています。
主な役割として、以下のような一連のサイクル(PDCA)を担います。
・観光データの収集・分析(来訪者数、宿泊数、消費額、顧客属性など)
・観光地域づくり戦略の策定と明確な数値目標(KPI)の設定
・行政、観光業者、他産業、地域住民との合意形成
・戦略に基づいた観光コンテンツの造成や受入環境の整備
・施策の効果検証と継続的な改善
DMOは観光PRや誘客だけでなく、データに基づく戦略策定や関係者との合意形成などを通じ、地域全体の稼ぐ力や持続可能性を高める「経営組織」としての側面を持っています。
■なぜ自治体や観光協会だけでは足りないのか
一つの観光地には、自治体(行政)、観光協会、商工会議所、宿泊施設、飲食店、交通事業者、農林水産業者、そして地域住民など、立場や目的の異なる多数の関係者(ステークホルダー)が存在します。
それぞれが独立して個別に観光振興を行うと、施策の「モレ」や「ダブリ(重複)」が発生し、地域全体としての相乗効果が得られにくくなります。地域全体で観光を進めるには、こうした多様な関係者の役割を整理し、共通の戦略や目標のもとで連携する仕組みが必要になります。その調整・推進の中心を担うのがDMOです。
■気仙沼:役割分担の明確化と「モレ・ダブリ」の排除
非常に分かりやすい構造を示しているのが、宮城県気仙沼市の「気仙沼観光推進機構」です。
同市の資料によると、かつては市行政、観光協会、商工会議所などが個別・分散して業務を行っていた結果、役割分担が曖昧でモレやダブリが存在していました。
そこで同市は「株式会社気仙沼」というイメージを掲げ、組織間での役割を明確化。行政が「インフラ・二次交通(総務部)」、商工会議所が「事業者育成・グルメ開発(人事部)」、観光協会が「観光案内・ガイド育成(広報営業部)」を担い、マーケティング組織である気仙沼地域戦略が、マーケティング、プロモーション、商品開発などを担う体制を構築しました。顧客データや購買データを取り入れ、「感情論や空中戦にしない」客観的な地域経営を推進しています。
■鹿角:思い入れや好みではなく「客観データ」で計画を策定
秋田県鹿角市(かづのDMO/かづの観光物産公社)の事例は、戦略策定におけるデータの重要性を示しています。
市が次期観光計画を検討する際、地域内の関係者だけで分析を行うと「自分がやりたいこと」「好きなこと」といった思い入れや主観が過度に反映されてしまうリスクを問題視しました。
そこで同市では、国内外の観光地域で活用されている分析手法「DestinationNEXT」を導入。客観的な視点と評価項目を用いて地域の強み・弱みを可視化し、関係者との共通認識の形成や次期計画の策定に活用しています。経験や直感に頼るのではなく、データに基づく共通認識を形成した上で計画(PDCA)を回す手法を実践しています。
■由布:人口3.3万人に年間420万人、合意形成にかけた時間
大分県由布市は、人口約3万3000人(令和8年5月末時点)に対し、年間の観光来訪者数が約420万人(令和7年)に上る九州有数の観光地です。
人口の100倍以上の来訪者が訪れる地域では、単なる誘客だけでなく、住民生活と観光の調和や地域内の各種団体の調整が不可欠となります。由布市(由布市まちづくり観光局)の歩みを見ると、体制構築までに長い年月をかけていることが分かります。
・2011年:「由布市観光基本計画」策定、観光新組織の検討開始
・2013年:「観光事務調整会議」を設置し、旧3町(湯布院・庄内・挾間)の連携強化
・2014〜2015年:新組織の設立準備・推進室を設置
・2016年:一般社団法人由布市まちづくり観光局を設立(DMO候補法人登録)
・2021年:DMO本法人登録
「DMOという組織を作ればすぐに解決する」のではなく、地域内の多様な事業者や住民との合意形成・信頼関係の構築そのものに丁寧な時間とプロセスが必要であることを物語っています。
■関門:旅行者の動線に合わせた「県境」を越える連携
山口県下関市と福岡県北九州市にまたがる関門海峡エリアの「海峡都市関門DMO」は、行政境界を越えた広域マーケティングの代表例です。
観光客にとって、本州(下関)と九州(門司港)を隔てる海峡はわずか700mであり、一つの連続した観光圏として移動します。しかし、行政区や県が異なると、従来は別々に予算が組まれ、一体的な広域プロモーションが困難でした。
関門DMOは民間主導の組織として両エリアを一体的に捉え、地域の観光施設(9つの指定管理施設等)の連携を支援。JR九州の関門鉄道トンネルやNEXCO西日本の関門トンネルのバックヤードを巡る「インフラツーリズム」など、行政の枠組みにとらわれない広域コンテンツを企画・推進しています。
■「観光客を呼ぶ組織」から「地域を経営する組織」へ
4つの事例を振り返ると、それぞれの重点は異なります。
・気仙沼=モレ・ダブリをなくす組織間の役割分担
・鹿角=思い入れを排した客観データに基づく施策策定
・由布=住民や旧地域間をつなぐ段階的な合意形成
・関門=行政境界(県境)を越えた旅行者目線の広域連携
手法は多様ですが、根底にある思想は共通しています。それは、単に広告を出して観光客を呼び込む「PR代理店」ではなく、地域全体のリソースを調整し、経済効果や持続可能性を高める「経営組織」であるという点です。
政府が掲げる第5次観光立国推進基本計画が、訪日人数の拡大に加えて「住民生活との調和」や「持続可能な地域経営」を重視するなか、現場でその実行を担うDMOの役割と存在感は、今後さらに高まっていくと見込まれます。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













