福島原発事故がもたらした電力供給への不安を背景に、急速に高まってきた次世代エネルギーへの関心は、今後の住宅事情にも大きな影響力を持つ。もちろん、震災前から”太陽光発電”や”燃料電池”の話題はメディアでも賑わい、環境配慮型住宅における様々な設備の中でも特にスポットを当てられていたが、まだまだ普及過程であり、一般的とは言い難かった。
しかし、今年の3月11日以降、状況は一変する。今や電力は供給されるだけではなく、需要側でのコントロールと創る設備の確保だということを認識する人達は確実に増えているのだ。「スマートグリッド(次世代送電網)」は供給側と需要側との両方向から電力を制御し、効率的な電力供給を行うシステムのことだが、もしこれが普及すれば、計画停電など不要になる可能性は高い。さらに、再生可能エネルギーの普及も高まり、原子力に頼らなくても安定した電力の確保も可能になってくるだろう。
そして、このシステムの世界規模での普及を睨み、いち早く動いた日本企業も現れた。このシステムに必要な「スマートメーター」という通信機能を持った電力計の市場の高い伸張性を見越し、東芝がスマートメーターのリーディングカンパニーであるスイスの「ランディス・ギア」を買収したニュースは記憶に新しい。
また、震災後の電力不足が懸念される中、住宅における創エネ設備も注目を集めている。住宅メーカーに対する”太陽光発電”に関する問合せは震災前とくらべ確実に増えており、実際、積水ハウスや積水化学工業が販売する戸建て住宅には、7割以上の屋根に太陽光発電が搭載されている。さらに、住友林業では”燃料電池”の戸建住宅への採用率が3割程度まで伸びており、同様に積水ハウスでも2月には2割程度の採用率だったものが、震災後には3割を超えるまでとなり、3500棟の年間受注計画に対し、既に4000棟を超える勢いで受注数が増加しているという。
このように、一部の住宅メーカーでは”燃料電池”の受注が伸びているが、それ以外での採用率は1割にも満たず、まだまだ各メーカーでの温度差があるのは確かだが、この数字が電力の自給自足の必要性の裏付けになっていると言っても過言ではない。また、これらの創エネ設備の搭載率が伸びていく一方で、問題も露呈している。普及への足かせにもなり兼ねないコスト高の問題は解決していないのが現状だ。”太陽光発電”システム設置と同様、”燃料電池”にも国からの補助金制度も採用されてはいるが、自己負担の金額は優に100万円を超え、簡単に出せる人の方が少ない。また、耐用年数も10年と言われており、コスト償却も難しいとされている。ただ、それでも設置する人達が増えている現状を考えれば、設備メーカーのさらなるコストダウンと住宅メーカーをはじめとする提案者側の営業努力はもちろんのこと、官民一体となった普及促進のための次なる一手を早急に考えて欲しいものだ。
「スマートグリッド」が発展し、やがて「スマートタウン」へと繋がる。その鍵を握る次世代エネルギーの設備確保は震災という荒波の影響もあり、急務となった。入り方は違えどもゴールは誰もが望む形になるのは間違いない。そのためのキーマンとして住宅メーカーの果たす役割は、その期待と同様に計り知れない程大きいものになるだろう。