2013年3月13日。宇宙の謎に人類がまた一歩近づく出来事があった。それは、南米チリ北部アタカマ州で、世界最大の電波望遠鏡アルマ(ALMA)の本格的な運用が開始されたことだ。完成は10月を予定しているが、それに先立ち、66基のアンテナのうち59基が可動を始め、開所式が催された。
アルマは、日本と米国、そして欧州主要国が共同で、1000億円もの開発費をかけて建設を進めているもので、直径12メートルのパラボラアンテナ66台を組み合わせることで、最大で直径18.5キロメートルの電波望遠鏡に相当する空間分解能を得ている。
電波望遠鏡といっても一般的には聞き慣れないかもしれないが、光学望遠鏡が可視光線を集光して星や惑星、またそれらの集合体である銀河などの形そのものを観測しようとするものであるのに対し、アルマのような電波望遠鏡は、電波を収束させて天体を観測し、それらを形作るもととなる星間物質を観測する望遠鏡である。
その性能たるや、かの「すばる望遠鏡」や「ハッブル宇宙望遠鏡」の約10倍もの細かな構造を見分けることができるほどだという。たとえば、大阪にコインが一枚落ちていたとして、そのコインが1円玉なのか25セントコインなのかを、東京から見分けられるくらいの性能といえば分かって頂けるだろうか。
そんな高精度の望遠鏡が、地球でいちばん宇宙に近いチリ・アタカマ砂漠の標高5000mに建設され、宇宙の謎を解き明かすために動き出したのだ。このアルマが起動することによって期待されることはまず、宇宙の誕生の秘密にまた一歩迫れるかもしれないということだ。これまで、すばる望遠鏡で見ることが出来たのは「宇宙誕生後8億年後」迄が精一杯。それより過去は見られなかった。しかし、すばるの約10倍もの性能を持つアルマならば、宇宙の暗黒時代直後の、銀河の誕生の瞬間を見ることが出来るかもしれないのだ。
ちなみに、アルマは本格始動前の時点ですでに、宇宙で星形成が活発に起こったいわゆる「ベビーブーム」といわれる時期が、これまで考えられていたよりも約10億年も過去の出来事であったことを発見している。また、光学望遠鏡では惑星の材料であるガスや塵の存在までは確認できないが、電波望遠鏡なら高温の星などが放つ可視光や赤外線をとらえ、惑星の起源に迫ることができる。さらに、アルマは宇宙空間を漂うアミノ酸などの「生命の材料」を探索することも可能だ。これにより、惑星や星雲、彗星などに生命の可能性を調べることも出来る。ひいては、我々地球上の生物の起源が「彗星で運ばれてきた」という説を裏付けるようなことにもなるかもしれない。
いずれにせよ、アルマが私たちに見せてくれるであろうものは、我々地球上の生物の起源、すなわちルーツなのだ。世界最大の望遠鏡が見せてくれる、宇宙最大のロマンに期待が高まる。(編集担当:樋口隆)