前代未聞のデジタルオペラ

2013年03月31日 10:01

 初音ミクといえば、今や、知らないと恥かしいくらいの超有名バーチャルアイドルだ。デジタルコンテンツに疎い人でも、緑のロングツインテールが印象的なキャラクターの姿をどこかで一度くらいは見たことがあるだろう。

 初音ミクは、ヤマハの開発した音声合成システム「VOCALOID2」を採用したボーカル音源の身体として設定されたキャラクター。キャラクターとしての名称だけでなく、クリプトン・フューチャー・メディアが発売している音声合成・デスクトップミュージックソフトウェアの製品名でもある。

 2007年に初版が発売されて以来、初音ミクを題材として制作された楽曲は10万曲以上にものぼるといわれるほど、ユーザーからの爆発的な支持を得、その後も人気は留まるところを知らず、ゲームやグッズ、フィギュア、イラスト、CGプロモーションなど、あらゆる方面で多岐に渡って社会現象ともいえる広がりを見せ続けている。

 そしてこの初夏、その初音ミクがまた新たな展開を見せようとしているのだ。

 それが、5月23日、24日の2日間に渡って、渋谷のBunkamuraオーチャードホールにて公開予定の新作オペラ「THE END」だ。この「THE END」は、音楽家でありアーティストの渋谷慶一郎と、演劇作家の岡田利規、映像作家のYKBXなどの人気クリエイターを中心に、時代の先端を担う気鋭のアーティストによるコラボレーション作品として制作されるもの。そして、この新作オペラ最大の特徴は「生身の人間が一切登場しない」ということだ。

 従来のオペラのように、オペラ歌手やオーケストラは作中には一切登場しない。その役を担うのは、初音ミクとボーカロイドなのだ。「THE END」は全編、彼らデジタルキャラクターによるアリアや、レチタティーボ、コンピュータによる音響、映像によって物語が展開していくという。

 オーチャードホールといえば、日本のクラシックやオペラ、バレエの殿堂として知られるホール。そのホールに、10.2チャンネルのサラウンド音響と1万ルーメンを超える高解像度プロジェクター7台を持ち込み、前代未聞のデジタルオペラが上演されるという。

 「THE END」のテーマは「生と死」。伝統的なオペラでみられる普遍の悲劇のテーマを、血の通わないデジタルキャラクターが演じる壮大な旅路の中で、現代に読み替えるという試みになっている。

 また、本作で登場する初音ミクの衣装を担当するのは、なんとルイ・ヴィトンのアーティスティック・ディレクター、マーク・ジェイコブス。彼と彼のスタジオチームが衣裳提供していることも大きな話題となり、ファッション業界からも注目を集めている。

 これだけでも前代未聞のスペシャル・コラボレーションとなるが、さらには建築家の重松象平が舞台美術を手がけていることでも注目されており、話題に事欠かない。

 赤をテーマカラーにしたオーチャードホールに、緑の革命が起こるのか。全く新しいオペラの誕生に期待したい。(編集担当:藤原伊織)