パワー半導体の例に見る、日本の技術力と成長への期待とは

2012年10月15日 11:00

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ロームの「世界最小、自動車搭載用SiCパワーモジュール」は、CEATEC AWARD 2012において、多分野のプロダクツやシステムのスマート化を支える「スマート・キーテクノロジー部門」でグランプリを獲得した。

 10月2日から6日までの5日間で総来場者数16万2219人と、今年も盛況のうちに幕を閉じた「CEATEC JAPAN」。しばしば「アジア最大級のデジタル家電展示会」と称され、次世代テレビやスマートフォン、そして今年はトヨタが初出展したことから電気自動車が話題の中心となったこの展示会は、本来は「デジタル家電」の展示会ではなく、それらを支える最新技術を披露する「最先端IT・エレクトロニクス」の展示会である。その為、センサや基盤・モジュールなど、デジタル家電以外にも数多くの注目すべき製品や技術が出展されている。

 パワー半導体もそんな製品・技術の一つである。電力の制御や供給を行うパワー半導体の高効率化は、電力損失を低減し、限られた電力の有効利用を進めるものとなる。現在のパワー半導体に多く用いられているのがSi(シリコン)であるが、近時はより高効率な次世代パワー半導体としてSiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)を用いたものが注目を集めており、今回の「CEATEC JAPAN」にも数々出展されていた。

 その中でも最も注目をすべきは、CEATEC AWARD 2012において、多分野のプロダクツやシステムのスマート化を支える「スマート・キーテクノロジー部門」でグランプリを獲得したローム の「世界最小、自動車搭載用SiCパワーモジュール」であろう。現在のハイブリッド車に用いられているインバータには、Si製のパワーモジュールが利用されている。このパワーモジュールを高パワー密度かつ高温動作が可能なローム製SiCパワーモジュールに置き換えた場合、その大きさが10分の1以下になる。さらに、高温動作が可能なことから、Si製パワーモジュールを利用する際に必要であった水冷が不要となるため、冷却機構も小さくすることが出来る。結果、システム全体としては約10分の1にまで小型化ができ、軽量化も実現。このシステムがハイブリッド車に搭載されれば、スペースの有効利用や、軽量化に伴うエネルギー効率の向上、同じ充電でも走行距離が伸長するなどのメリットが得られるという。

 また、先日資本・業務提携を発表した日本インター<6974>と米国Transphorm社は、GaNを用いたパワー半導体を出展。今まで期待されながらも実現してこなかったGaNパワー半導体最先端技術なだけに、その実用化・製品化・量産化の実現に業界では注目が集まっている。次世代パワーモジュールとしてより注目を集めているSiCパワー半導体との関係については、GaNパワー半導体の特性上、サーバ電源・ACアダプタといった「パワーサプライ市場」やエアコン・汎用インバータなどの「モータドライブ市場」を中心に展開することで、産業機器や大型機器を得意とするSiC製品との棲み分けが進むのではないかと予測されている。

 家電メーカーが、省エネ化や小型化・多機能化を進めた商品を提供できる背景には、そこに搭載される高い技術力を駆使したエレクトロニクス製品が存在する。こうした最先端でありながら日常生活では直接目にすることの少ない技術を体感できるのが「CEATEC JAPAN」である。パワー半導体に関して言えば、2020年には世界全体で8000億ドル規模に成長する見通しだという。「デジタル家電の展示会」として大幅な赤字を計上した大手家電メーカーの動向ばかりを追って悲観するのではなく、それらの製品を支える技術に目を向け、様々に応用されて市場が拡大していることにも注目すべきであろう。技術の流出に対する危機管理さえ徹底されていれば、日本経済の未来は意外と明るいのではないだろうか。