京大とアステラス製薬、ヒトiPS細胞から腎臓の前駆細胞を作製する方法を確立

2015年07月27日 08:11

 腎臓の機能が急激に低下することを急性腎障害という。 処置を行った患者でも 60%程度は死にいたる。これまでの方法ではこの急性腎障害により受けた腎臓のダメージを軽減することはできておらず、ヒトiPS細胞を使った細胞移植が新しい治療の選択肢の一つとして期待されている。

 今回、京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の長船健二教授グループとアステラス製薬<4503>は、腎臓の再生医療に関する共同研究において、iPS 細胞から作製した腎前駆細胞の移植により、マウスの急性腎障害(Acute Kidney Injury; AKI)による腎機能障害や腎組織障害が軽減することを発見したと発表した。

 両者の研究グループは、ヒトiPS細胞からOSR1とSIX2というタンパク質を指標に腎臓の前駆細胞を作製し、その細胞が腎臓の尿細管様の3次元の管構造を作る能力を持っていることを明らかにした。さらに、虚血再灌流により急性腎障害を生じたマウスに、この腎臓の前駆細胞を移植したところ、症状を緩和することを確認した。特に腎機能の指標である血中尿素窒素(BUN)と血清クレアチニンの検査値の上昇が顕著に抑えられ、組織学的な変化も抑えられたという。

 具体的には、ヒトiPS細胞に、腎前駆細胞の指標となるOSR1遺伝子の発現に伴いGFP(緑色蛍光タンパク質)が、SIX2 遺伝子の発現とともに tdTomato(赤色蛍光タンパク質)が発現する系を構築した。この系を用いて緑と赤の蛍光を目印に、ヒト iPS 細胞から腎前駆細胞へと分化誘導する方法を確立した。

 この方法で誘導した細胞は、マウスの後腎細胞と共培養や、あるいは免疫不全マウスの精巣周囲の脂肪内に移植したところ、いずれも尿細管様の管構造をつくり、腎臓の前駆細胞として十分に機能することを明らかにした。

 また、虚血再灌流により腎障害を引き起こしたマウスの腎被膜下に、前述の方法で作製した腎臓の前駆細胞を移植し、その効果を検証した。その結果、腎機能の検査値である血中尿素窒素(BUN)値や血清クレアチニン値は細胞を移植しなかったマウスと比べて顕著に低下していることがわかった。さらに腎臓の組織切片を観察したところ、尿細管の壊死や線維化など、腎臓が障害を受けた時に発生する現象についても、かなり小さく抑えられていたという。

 今回、移植した細胞は、マウスの腎臓の一部にはならなかったが、周りの細胞の回復を助ける働きがあり、また腎臓の保護因子も分泌していることが確認された。腎移植を必要とするような人工透析を受けている慢性腎不全の方の場合、腎臓の細胞がほとんど壊れているため、治療には腎臓そのものを作製して移植することが必要であり、今回の方法だけでは治療は困難だ。

 しかし、急性腎障害を負った方の腎機能を回復し、腎障害の慢性化を防げる可能性を示しており、腎疾患にも細胞移植を使った治療が適応できることを示唆した、としている。(編集担当:慶尾六郎)