「世界遺産」という言葉は多くの方が見聞きしたことがあるかと思うが、「記憶遺産」という言葉はご存じだろうか?記憶遺産とは、世界遺産、無形文化遺産と並ぶユネスコ(国連教育科学文化機関)の三大遺産で、歴史的な文書や絵画、映像フィルムなどを保護し、デジタル技術などを使い広く公開することを目的に97年から登録が開始された。登録に際しては真正性や完全性、適切な保存管理計画の有無などが審査される。現在、登録済みの記憶遺産は301件で、代表的なものに「バイユーのタペストリー」や「アンネの日記」「ベートーヴェンの交響曲第9番の自筆楽譜」などがある。
そしてユネスコの国内委員会は24日、2017年の登録を目指す記憶遺産の候補として、第2次大戦中に「命のビザ(査証)」でナチス・ドイツから多くのユダヤ人を救った外交官・故杉原千畝の資料(杉原リスト、岐阜県)と、7世紀から8世紀にかけて群馬県高崎市に作られた日本最古の石碑を含む「上野三碑」(こうずけさんぴ、群馬県)を選定したとの発表を行った。公募に対して申請のあった16件からこの2件に絞り込んだ。16年3月、ユネスコに申請書を提出し、17年に記憶遺産国際諮問委員会の審議を経て登録の可否が決定される。
この2件を選定した理由について国内委員会は、杉原千畝の資料は、杉原が果たした人道的な業績を示しており世界的にも価値があること、そして「上野三碑」は短い碑文の中に古代の社会制度や宗教といった多くの情報が含まれていることなどを理由に挙げている。記憶遺産の審査は2年に一度行われており、一度の審査で申請できるのは1国2件までとなっている。そのため国内委員会が候補の絞り込みを行っている。
なお、現在国内で記憶遺産として登録されているものは、「山本作兵衛炭坑記録画・記録文書」、「慶長遣欧使節関係資料」、藤原道長の自筆日記「御堂関白記(みどうかんぱくき)」の3件となっている。そして今年は10月4~6日に、大戦後のシベリア抑留の資料と国宝「東寺百合文書(とうじひゃくごうもんじょ)」とが審査を受ける。(編集担当:滝川幸平)