格安航空会社(LCC)の参入やオープンスカイ協定の導入によって、日本の空を取り巻く環境が大きく変わろうとしている。それに伴って、さまざまな規制緩和が進められているが、利用する側にとっては、規制緩和によって安全面が損なわれるのではないだろうかという不安が頭をよぎる。
航空運賃を安く抑える為に、機内サービスなどが省略されることは致し方ないとしても、命が危険にさらされるようなことだけはあってはならない。とくに空の便は、何か事故があればすぐに生命に関わる事態に発展することも予想されるため、どうしても神経質にならざるを得ない。
そんな中、安全面を懸念されているのが「オンボード給油」だ。オンボード給油とは、乗客が機内にいる状態で給油することで、これまでは原則として禁止されていた。
航空機への給油時間は長くても15分程度。オンボード給油を行なうことで短縮できる時間も、通常であれば10分程度のことだろう。通常であれば、わざわざ「危険」といわれる給油方法をとらなくても、さほど運行に差し支えるとも思えず、ターンアラウンドの時間が大幅に短縮されるほどではないが、機体の所有台数が少なく、それらをフル稼働させなくてはならないLCCの営業形態にとって、オンボード給油はビジネスモデルを確立させるためには不可欠といわれている。実際、機材の有効活用のため、30分で折り返し運航するスケジュールを組んでいるピーチ・アビエーションやジェットスター・ジャパンなどのLCCにとって、そのたった10分の短縮は大きな意味を持つ。
LCCの場合、たとえ路線が違っても、前の運行で遅延があったり、欠航などが起こったりすると、その後の、その機体を使用するすべての運行に支障が出てしまう。単独ならともかく、乗り継ぎ便などを利用する場合は常にこのリスクがつきまとうのがLCCの宿命でもあり、ビジネス利用を敬遠される最大の理由とも考えられる。オンボード給油を行なうことで、欠航はともかく、少々の遅延ならカバーできるとしたら、利用したいのはやまやまだろう。
オンボード給油に関しては、国や専門家の間でも意見が大きく分かれている。とくに米国はオンボード給油に対してきわめて厳しい姿勢を見せており国際民間航空機関(ICAO)の基準に加え、連邦航空局(FAA)独自でハードルの高い要件を詳細に設け、米国でのオンボード給油は実質、不可能に近い。
「中小型機で給油に要する数分を短縮するために乗客の命を危険にさらすのか」という意見がある一方、「発火しにくいジェット燃料では、事故の可能性はきわめて低い」と、オンボード給油推進派はまったく逆の主張をする。
ジェット燃料の成分は、灯油を高品位化し、若干の特性改良剤を加えた「ケロシン」と呼ばれる物質。発熱量は大きいけれど、ガソリンよりも発火しにくいものだ。しかも、万が一、発火事故が起こったとしても、機体の外で起こるもので、人的被害に及ぶ可能性は極めて低いと考えられている。
「ジェット燃料に万が一引火した場合、機内に乗客が残っていれば大惨事につながる」と反対派が懸念する可能性も否定はできないが、これまでにその実例は「ない」というのが推進派の主張だ。
国土交通省は、2011年から数回に渡って見識者や関係者から話を聞き、条件付ながらICAOの基準に則ってオンボード給油を承認しており、LCC各社も「必要があれば」行なうとしている。これにより、日本国内でのオンボード給油は基本的に「安全」だろうという見解のもとで運用されているといえよう。
ただ、オンボード給油がたとえ安全だったとしても、数分の短縮に躍起にならざるを得ない超タイトなスケジュールと、それを前提にしたビジネスモデルで、その他の安全管理は充分に行えているのかという疑念は残る。国内路線だと、たかだか数千円を節約できる程度。そのためにかけるリスクの方が大きくならないようにしてもらいたい。