2019年、病院で使用される抗菌薬の供給トラブルが発生し、全国の病院で混乱が生じた。日医工が販売する抗菌薬のセファゾリンナトリウム注射用の販売が一時中止され、これにより全国的な抗菌薬供給不足となった。同薬は手術時の感染予防に多く使われている重要な薬で、また、メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)感染症の第一選択薬として使用されている。
同薬のように特定の疾患に最適な抗菌薬が供給不安定となると、代わりに広域(効く菌が多い)抗菌薬が使われることとなり、関係ない細菌が死滅したり薬剤耐性菌が生じたりする原因となる。抗菌薬が効かない薬剤耐性菌が増えてしまうことは日本のみならず世界中で問題となっており、厚労省も抗菌薬の安定供給に関する対策に乗り出している。必要な抗菌薬を守るためには、貴重な抗菌薬を正しく使い薬剤耐性菌を生み出さないようにする一人ひとりの意識も必要なようだ。
薬剤耐性(AMR)問題に取り組む国立国際医療研究センター病院AMR臨床リファレンスセンターが全国の20-60代の男女331名を対象に行った「抗菌薬・抗生物質の開発停滞、供給トラブルについての認知調査」の結果を4日に公表しているが、これによれば、「昨年、抗菌薬の供給トラブルが生じたことを知っていた」者は17.5%にとどまり、一般的に関心が低いようだ。
抗菌薬は利益が少なく投資資金の回収が難しくなっており抗菌薬の研究開発から撤退する製薬企業が増えているという。こうした事実を「知っている」と回答した者は20.5%のみであった。
昨年の供給トラブルはイタリアから輸入している原薬に異物が混入していたことと出発物質の中国メーカーが環境規制の影響で生産を止めたことがきっかけだった。日本では多くの製薬企業が抗菌薬を開発していたが、新規抗菌薬の開発が滞っていくとともに複数の企業が抗菌薬市場から撤退している。
グローバル化の中で生産コストの低い国への生産移行が生じ、安価な抗菌薬が得られるようになった一方で、予想外のトラブルから供給が滞るリスクが増大している。薬剤耐性対策の観点からも、安定的供給を実現するビジネスモデルを整えていくことが必要で、厚生労働省もこの問題に取り組みはじめている。
センターは「現在ある貴重な抗菌薬を正しく使い、薬剤耐性菌を生み出さないよう」一人ひとりの適切な抗菌薬の利用が重要だとも指摘している。(編集担当:久保田雄城)