2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症の世界的な流行で訪日観光客(インバウンド)需要は蒸発した。今年6月10日から訪日観光客の受入れが2年2カ月ぶりにようやく再開されたが、集客が低調で期待された回復にはほど遠い状況ようだ。訪日需要が低調な背景には、煩雑な入国手続きや厳しい行動規制などがあるようだ。また、観光関連業種の人手不足など受入れ態勢にも多くの課題が存在する。
9月9日、日本総研(日本総合研究所)がレポート「訪日観光の再開と今後の課題~ロードマップを策定し円滑な受け入れを~」を公表している。これによれば、観光庁のデータに基づく今年4月から7月の平均訪日外客数は13.8万人で、これを19年の同期間と比較するとマイナス95%となり、コロナ以前の水準には遠く及ばない状況だ。出入国在留管理庁のデータでは、6月10日から7月31日の間に所定の手続きを踏んで入国した観光目的の訪日客は約8100人にとどまり、観光庁の公表資料に基づく入国希望者数をみると、9月中は7941人、10月以降は5931人という低水準だ。
6月7日に公開された「観光庁ガイドライン」をみると、現在はすべての外国人旅行者に対してビザの取得を義務付けている。コロナ以前は世界86カ国に対し短期のビザ無し渡航を認めていた。観光目的の訪日が認められているのは世界98カ国・地域のみで、さらに3回のワクチン接種を終えていることが条件になっている。ビザ発給手順など訪日に必要な手続きは従来と大きく異なっており、「このように入国前の手続きにかなりの日数を要することが、訪日客の出足が鈍い理由の一つと考えられる」とレポートは指摘する。また、滞日中の行動についても細かな規制があり、マスク着用、手指の消毒、三密回避の徹底が求められ、訪日希望者は訪日前にこれらに同意することが必要だ。こうした厳しい行動規範に嫌気し、訪日観光を見送るケースも一定数存在するようだ。観光関連業者や地域経済団体は政府に対してもう一段の規制緩和を政府に求めている。
また、受入れ態勢にも多くの課題がある。長引くコロナ禍で宿泊、飲食など観光関連業からは多くの人材が流出しており、深刻な人手不足の状況にある。特に多言語対応が可能な人材の不足が著しいようだ。レポートは「政府は積極姿勢を明確に示して海外の訪日期待を維持すると共に、国内観光への支援を訪日観光の再開につなげていく計画的対応が重要である」と提言している。(編集担当:久保田雄城)