近年の住宅は、戸建て住宅、集合住宅に関わらず、高気密化・高断熱化などが進んでいる。エネルギー効率や快適性の向上、耐久性の向上など、さまざまなメリットが期待できる一方で、建材等から発生する化学物質による室内空気汚染や、カビやダニなどの繁殖もしやすくなってしまい、それによる健康への影響、いわゆる「シックハウス症候群」の増加も指摘されている。
シックハウス症候群とは、新築あるいはリフォームした建物内の空気質が原因と考えられる様々な健康障害のことで、1990年代に顕在化して、原因の一つであるホルムアルデヒドがマスコミで大々的に取り上げられたことなどで、認知が一気に広まった。しかし、シックハウス症候群は医学的に確立した単一の疾患を指す言葉ではなく、居住に由来する様々な健康障害の総称だ。その症状も人によって様々で、住居内にいるだけで、目がチカチカしたり、めまいや頭痛に悩まされたり、他にも、鼻水やのどの乾燥、吐き気やじんましん、湿疹などの症状がある。
千葉大学予防医学センターが実施し、リフォーム5年以内の住宅に住む約3000人を含む約5000人からの回答を得た2021年のウェブ調査結果によると、回答者の約27%にシックハウス症候群の可能性がみられたという。2003年及び2018年に建築基準法が改正され、建材の化学物質に厳格な規制がかけられたことで、それ以降は同症候群の患者が減少しているとの見方もあるが、実際にはそうではないことがよくわかる。シックハウス症候群の原因は建材などの化学物質だけではなく、日々の生活の中で使う洗浄剤や殺虫剤、化粧品、電化製品、ストーブやタバコの煙など、多岐に渡るから厄介だ。
この難題を改善すべく、千葉大学は2007年に「ケミレスタウン®・プロジェクト」を発足。従来からシックハウス対策として室内空気環境の向上にいち早く取り組んでいた積水ハウスと研究を開始している。同プロジェクトでは、将来、環境由来の病気になるかもしれない人たちに対して、どのような方法、環境だと予防ができるかを研究すべく、積水ハウスが千葉大学の柏の葉キャンパス内に、化学物質発散量を抑えた仕様による「ケミレスハウス®」実証実験棟を建築し、室内のVOC(揮発性有機化合物)濃度などを測定したり、シックハウス症候群と考えられる子どもを中心に短期間滞在してもらって、その症状の改善効果を研究したりしてきた。
同研究は2022年3月に一期が終了し、積水ハウスが開発した空気環境配慮仕様「エアキス」について実証実験住宅における脳波測定実験などを基にした分析・評価で得られたエビデンスを公開しているが、住まい手の幸せ・健康のため、室内の空気環境への継続的な研究は必要不可欠だとの考えのもと、引き続き2022年4月から「千葉大学予防医学センター寄附研究部門第2期」を開始。現在は2023年1月から2026年夏にかけた長期調査として「健康と住まいの環境に関する全国調査(J-hohec:Japan – Housing and Health Cohort.)」を実施している。
積水ハウスが提供している次世代室内環境システム「SMART-ECS」は、約8割の顧客に採用されているそうで、世の中の空気環境への関心の高さが伺える。本来ならば、わが家は、最も心が安らぎ、くつろげる場所であってほしい。これからの住まいはシックハウス症候群を気にせずに、皆が心から安心して幸せに暮らせるようになることを期待したい。(編集担当:藤原伊織)