コロナ禍から回復傾向の産機市場。市場ニーズにあわせた長期供給プログラムとは 

2023年10月08日 10:27

画・FAロボットの需給逼迫。日本・アジアで需要増大の見込み。富士経済。

製造業向けでは生産設備の自動化・省人化などスマートファクトリー化による需要や低・脱炭素化などの需要が増加し、前年度を上回る見通しだ

一般社団法人日本産業機械工業会が今年3月に公表した「2023年度 産業機械の受注見通し」によると、産業機器の内需では、民間設備投資の持ち直しの動きがみられるものの未だ厳しく、前年度比2.2%減の3兆3503億円と見込んでいる。しかし、製造業向けでは生産設備の自動化・省人化などスマートファクトリー化による需要や低・脱炭素化などの需要が増加し、前年度を上回る見通しだ。また、半導体分野も大幅な落ち込みは回避されるものと見込んでいる。一方、外需は半導体や電気自動車関連で工場誘致などの動きが各国で活発化している影響で新規投資案件が増えていることから、前年度比14.4%増の2兆646億円と見込んでいる。こちらもやはり、製造設備や物流関係の自動化をはじめ、脱炭素化ニーズの拡大、さらには、液化天然ガス(LNG)プロジェクトの加速や水インフラ整備、水素・アンモニア関連への投資拡大等を背景に、各種プラント及び関連設備の増加が期待されている。

 そこで今、注目されているのが「長期供給プログラム」だ。長期供給プログラムとは、特定の期間にわたって必要な安定して提供する予定の製品やサービスについて管理・開示する取り組みで、特に産業やインフラ、医療、自動車など、機器寿命の長い市場に顧客を持つ企業での採用が進んでいる。需要が一時的なものでなく長期間にわたって見込まれる場合、供給を継続的に行う必要があるが、長期供給プログラムによって情報管理することで、需要の変動に対応しながら、製品やサービス供給の一貫性を保つことができるのだ。また長期供給プログラムを導入することで、製品の安定供給だけでなく、生産プロセスや供給チェーンを最適化する機会が得られ、コスト削減や効率の向上が期待できるとともに、サプライヤーやビジネスパートナーとの長期的な信頼関係も強固になる。つまり、需要と供給のバランスを保ち、持続的な改善活動を行いながら、長期的なビジョンで戦略を展開することができるのだ。

 最近の動向では、半導体・電子部品のロームが7月28日、産業機器などの長期的な需要が見込まれるパワー半導体やアナログ半導体製品などを対象に10~20年間の供給期間を設定し、顧客が継続して調達できる長期供給プログラムの運営を開始したことを発表している。

 ロームでは新たに立ち上げた専用サイト上で製品毎の供給ステータスと供給期間の目安情報を公開しており、掲載情報(対象製品・供給期間)の更新は年に一度行う予定だとしている。開示情報はあくまで目安だが、特定の部品を長期発注することが多い産業機器などの顧客からすると、長期供給プログラム対象製品が開示されることは、安心して採用の検討を進めるための有効な動機になるだろう。また、ロームとして初めての取り組みであるだけでなく、業界全体を見渡しても、ここまでパワー半導体、アナログ製品を取り揃えた長期供給プログラムは他に類がなく、大きなアドバンテージになりそうだ。
 
 ロームの他にも、半導体集積回路、衛星通信用コンポーネントなどのマイクロ波製品を取り扱う日清紡マイクロデバイス株式会社や、車載・産業市場向けの半導体製品の開発・製造・販売を行う東芝デバイス&ストレージ株式会社など、半導体業界では長期供給プログラムを採用する企業が増え始めている。日本企業がこれまでに培ってきた品質への信頼の高さに加え、長期の使用を見据えた長期供給プログラムの採用は、今後のグローバルな市場においても大きな力となるだろう。(編集担当:今井慎太郎)