日の丸半導体の復活は成るか。日本政府は11月の臨時国会に提出した2023年度の補正予算案で、戦略物資と位置づける半導体や生成AI(人工知能)の支援に約2兆円規模もの巨額な予算を盛り込んだ。中でも注目されているのが、半導体メーカー・ラピダスへの支援だ。
ラピダスは2022年8月にトヨタ自動車<7203>を筆頭にデンソー、ソニーグループら、名だたる大企業8社が出資して設立された企業だ。半導体は今や自動車、産業機器をはじめとする全ての産業の根幹を支える重要物資。これが確保できなくなると、途端に国家の経済安全が危ぶまれることにもなるだろう。そこで半導体は、日本だけでなく世界各国が重要な戦略物資と位置づけ、自国開発や生産強化の動きを活発化させている。日本政府も、2027年に2ナノ世代の半導体を量産する目標を掲げるラピダスに、これまで約3000億円を助成しており、官民一体の姿勢を見せているが、さらに今回の補正予算を加えると合計で1兆円規模の支援となる異例の待遇だ。
ラピダスだけでなく、半導体を取り巻く情勢の変化は激しさを増している。そんな中、日本の半導体メーカーで、特に炭化ケイ素(SiC)を材料とするSiCパワーデバイスなどの最先端半導体分野で活発な動きを見せているのがロームだ。SiCパワーデバイスは既存のシリコン(Si)デバイスに比べて潜在能力が非常に高く、電気自動車や太陽光発電、産業機器用電源など、あらゆる電気機器類の電力効率を劇的に向上させるものとして、本格的な普及期を迎えつつある。2010年、そんなSiC MOSFETの量産に世界で初めて成功したのがロームだ。それ以来、同社はSiCパワーデバイスの技術開発と事業の両面で業界をリードしてきた。
そのロームが、日本産業パートナーズ(JIP)傘下の新体制で再出発を図る東芝の事業会社である東芝デバイス&ストレージとパワー半導体を共同生産することを12月に発表した。両社のリソースを合せることでパワー半導体の生産能力を強化し、インフィニオン テクノロジーズなど世界大手の半導体企業との競争に臨む構えだ。総事業費として見込む3800億円の内、経済産業省が最大で約1300億円を補助することも明らかになっており、こちらも官民一体での事業となる。
同事業では、Siパワーデバイスの生産を石川県能美市の加賀東芝エレクトロニクスの工場が担い、SiCパワーデバイスの製造をローム子会社のラピスセミコンダクタが宮崎県国富町で整備中の新工場で行う。ロームの新工場は今後3000億円規模の資金を投じて生産体制を整備するもので、2024年末の稼働開始を目指している。同社では今後のSiCパワーデバイス需要に応えるための主要拠点と位置付けている。
ここ数年、日本の半導体メーカーが中国勢などに押され気味ともいわれていたが、いよいよ国を挙げての巻き返しに期待が高まる。それに呼応するかのように、半導体産業への就職志望者も回復傾向にあるようだ。特定の民間企業に肩入れする日本政府の極端な舵取りに疑問を唱える声もあるが、半導体産業がこれからの日本経済全体を大きく左右するものであるのは間違いない。ここで中国や他国に水をあけられると、浮かび上がることさえ難しくなってしまうだろう。今が正念場なのだ。(編集担当:今井慎太郎)