今回のニュースのポイント
令和8年度税制改正では、相続税・贈与税分野でも制度の見直しが行われます。教育資金の一括贈与に係る非課税措置は期限を延長せず、新規適用が停止される一方、中小企業の事業承継を支える納税猶予制度では計画提出期限が延長されます。高齢世代に集中する資産を次世代へ移す流れを維持しながら、税負担の公平性や地域経済維持とのバランスをどう取るかが焦点となっています。
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令和8年度税制改正に関連する改正法は2026年3月31日に成立し、同日に公布されました。今回の税制改正において、一般家庭の資産形成や家族間のライフプランに直接影響を与える生活密着型の論点となっているのが、相続税・贈与税制の見直しです。日本社会の構造的な課題として、高齢世代に多額の資産が偏在する一方で、現役・若年世代が教育費や住宅費、子育ての大きな経済的負担に直面している実態があります。これまでの税制当局は「眠れる高齢者資産を早期に若年層へ移転させ、経済を活性化させる」という資産移転促進の考え方に軸足を置いてきました。しかし今回の改正は、単に資金を動かすだけでなく、「誰が、どのような目的で、いくら移すのか」という、税負担の公平性を厳格に見極めるフェーズへの明確な転換点となっています。
読者や市場の反応が最も大きい注目ポイントが、祖父母などから子・孫への資金移動を支えてきた「教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置」の新規適用停止です。本制度は平成25年度税制改正において、高齢世代の資産を早期に若年層の教育・人材育成資金として充当することを主眼に創設され、直系尊属からの贈与について最大1,500万円までを非課税とする大きな優遇措置でした。しかし制度開始から時間が経過した現在、新規の契約件数は全盛期に比べ大きく減少しています。さらに、多額の余剰資産を保有する一部の富裕層に利用が偏っている実態が浮き彫りとなり、「結果として世代間の格差固定化につながりかねない」との懸念や公平性への疑問が指摘されるようになりました。次世代の資産形成支援としては、0歳から加入可能な新型NISAなどの普及に政策の主軸が移っていることもあり、本特例は2026年3月31日の適用期限をもって延長されず、新規適用を終了することとなりました。
ただし、この一括贈与特例の終了をもって「祖父母からの教育支援そのものが完全に否定された」と誤解することは禁物です。税法本則の原則において、祖父母などの扶養義務者が、子や孫の就学や日々の生活に直接必要な教育費や生活費を「その都度」負担する場合、通常必要と認められる範囲内であれば従来通り贈与税は非課税扱いのままとなります。今回の改正が意味するのは、将来必要となるまとまった大金を「一括で先んじて非課税移転する」という、富裕層に有利に働きやすい例外的な優遇措置の是正です。都度払いの教育支援という家族間の健全な互助関係は担保されており、生活実務上、過度に不安視する必要はありません。
個人資産に対する公平性のチェックが厳格化される一方で、日本の地域経済を支える経済産業の現場においては、支援継続の姿勢が打ち出されています。それが、中小企業の経営者高齢化や深刻な後継者不足、地方企業の維持存続という課題に対処するための事業承継税制の期限延長です。今回の改正では、法人版事業承継税制(特例措置)の適用前提となる「特例承継計画」の都道府県知事への提出期限について、2027年(令和9年)9月30日まで1年6カ月延長する措置が講じられました。同時に、個人事業主を対象とした個人事業承継計画の提出期限も2028年(令和10年)9月30日まで2年6カ月延長され、雇用の維持と地域経済の地盤沈下を防ぐセーフティネットが強化されています。
ここに、令和8年度における相続・贈与税制の極めて示唆に富む要点があります。それは、全く同じ資産の相続・贈与でありながら、「個人のプライベートな資産」と「事業用の承継資産」とで、政策目的に応じて異なる制度設計が行われているという点です。個人の金融資産や不動産の移転に対しては、富の格差固定化を防ぎ税の公平性を追求する「厳しい分配の視線」が注がれるのに対し、企業の株式や事業用資産に対しては、地域経済と雇用維持を重視する「成長・維持の政策視点」が置かれています。同じ税目の中でこれほどドラスティックに目的別の制度設計が使い分けられている事実は、現在の日本政府が抱く危機感のありかを雄弁に物語っています。
人生100年時代を迎え、老老相続の弊害が叫ばれる日本において、真に求められているのは「相続が発生した後に、遺された高齢世代の間で閉鎖的に富が回る」ことではなく、次世代の成長や経済の維持に最も必要とされる時期に、適切な世代へと資産がダイナミックに循環する仕組みです。ただし、それが一部の富裕層のみをさらに豊かにする優遇措置になっては社会の持続可能性が揺らぎます。教育資金贈与の終了という「公平性への配慮」と、事業承継税制の延長という「地域雇用への責任」。これら一見相反する二つのアプローチを精緻に融和させながら、日本社会全体に蓄積された莫大な個人金融資産をいかに次世代の成長力へと結び付けていけるか、税制による資産循環のあり方が、今後も問われ続けることになりそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













