業務の過重負荷による脳疾患、心疾患、精神障害で死亡や自殺する過労死などを防ぐことを国の責務とする「過労死等防止対策推進法案」が23日の衆院厚生労働委員会で可決した。月内に衆院を通過し、今国会成立の見通しになっている。
過労死防止を国の責務と明記する法律は初だが、労働形態(雇用形態)をめぐる労働法制の大きな見直しを図ろうとする政府にとって、過労死防止の責務を負い、その環境に目を光らせるのだから、労働形態の多様化を推進しても文句ないだろうと「世界で最も企業が活動しやすい環境づくり」への材料になる可能性も危惧される。
そもそも、労働基準法が厳守されれば過労死や過労からの自殺は生まれなかった。経営効率と業績主義(成果主義)の行き過ぎが企業間競争に加え、社内競争激化と社員への重いノルマ達成を求める結果を招いてきた。今回の法案は歓迎すべきだが、こうした法律を制定しなければならないほど労働環境が悪化している現況の労働環境改善策こそ、とられるべき政策だ。
今回の法案は超党派による議員立法で提出されている。過労死の多発から過労死が遺族だけでなく、社会の損失になる視点から調査、研究、その他過労死等の防止対策の推進を図って、健康で充実して働き続けることのできる社会の実現を目指そうというものだ。
国の責務として、過労死防止のために過労死等に関する実態調査や効果的な防止に関する研究、情報収集、整理、分析、情報提供などを定めるほか、(1)国と地方公共団体は教育活動、広報活動等を通じ、過労死等を防止することの重要性について国民の自覚を促し、関心と理解を深めるよう必要な施策を講じて啓発を図る。
(2)国と地方公共団体は過労死等のおそれのある人や親族などが相談を受ける機会を確保し、産業医や相談に従事者に研修機会の確保を図る。過労死などのおそれのある人に早期に対応して、過労死等を防止するための適切な対処を行う体制の整備や充実に必要な施策を講ずる。
(3)国と地方公共団体は民間の団体が行う過労死等の防止に関する活動を支援するために必要な施策を講ずるなどが柱になっている。
また、毎年11月を「過労死等防止啓発月間」として、啓発を促すことも盛り込んでいる。
基本的には過労死や過労による自殺を生まないよう、雇用者に従業員の健康に留意した労働環境を確保する義務を負わせること、同時に、そうした環境を確保しているかどうかを一定条件の下で株主にチェックさせる権限を持たせ、過労死や過労による自殺者が出た場合には、経営者責任はもとより、何らかの株主責任制度を検討していくことも実効を上げることになろう。
株主は出資に応じ配当を権利として受けている。もちろん、出資会社が倒産するリスクも負っているので、利益に応じて配当を受けるのは当然だが、従業員の過労死を「故意・過失に関係なく、会社(法人・雇用者)の不作為(業務を現況以上に続けることで従業員が死に追いやられるかもしれない状況で、これを放置する)による致死」と解釈すれば、最も優先されるべき生命を会社として事業活動の中で奪ったことになるので、出資者にも法人に対して労働環境に関しての状況を知る一定の権限と事故発生時の一定責任を持たせてもいいのではないか。過労死防止の啓発効果では最も即効性が期待できると考える。
残業代ゼロの働き方や限定正社員など働き方を大きく変えようとする政府の視点や法人税の更なる引下げ検討、配偶者控除廃止を視野にした論議など、経済最優先の路線が、大企業最優先、株式市場最優先路線を突っ走ってきた「旧自民党」の体質とどこが変わっているのか、政権復帰後の短時間で体質が大きく変化したのか。安倍政権は政権奪還当時にうかがわせた労働者の視点を忘れてはならない。「政権奪還時の初心忘るべからず」。初心とは「憲法改正と集団的自衛権の行使容認、大企業・大株主優先戦略だった」などと言わないでいただきたい。でなければ、再び、多くの支持者を失うことになろう。(編集担当:森高龍二)