ブラック企業が若者を「使い捨て」にする理由

2013年09月02日 19:49

 若者を酷使する「ブラック企業」に対して今月から、ついにメスが入れられることになった。厚生労働省は、極端に離職率が高いなどの苦情が多い企業4000社について集中的に立ち入り調査を実施する。

 『ブラック企業 日本を食いつぶす妖怪』の著者で、NPO法人POSSE代表の今野晴貴氏によれば、ブラック企業はITやサービス産業、介護、外食などの「新興企業」に多いという。ここ1~2年は中小企業ばかりでなく、大企業でも目立つようになってきた。

 新卒を大量採用し、入社してから過酷なサービス残業や「カウンセリング」と称したパワハラによって「選抜」する。中には大手企業に入社した初日に「予選のスタートだ」と言われ、過労死ラインを超える残業やパワハラに耐えてはじめて正社員として認められる、といった例もある。過酷な「選抜」の過程で、うつや過労死に追い込まれる若者は数知れない。

 ブラック企業にとっては丁寧に採用した新卒を一から育てるよりも、大量に採用してついて来ることができた若者を残す方が「合理的」なのである。明確な労使間のルールがなく労働組合も機能していないため、外から見れば悪質なやり方が、内から見れば「合理的」になっていく。

 もちろんこれまでも、多くの日本企業は正社員に「ブラックな働き方」を強いてきた。だがその代わり彼らは福祉や雇用の面で会社に守られていた。ところが新興ブラック企業は「正社員」という立場をいわばエサのようにし、若者に過酷な労働を強いたうえで「使い捨て」にする。若者自身も「“正社員だから”我慢しなければ」と、声をあげるのをためらってしまう。ブラック企業における「正社員」とそうでない企業の「正社員」とでは、意味付けが全く異なっている。

 このままブラック企業が跋扈すれば若者の雇用環境はますます悪化し、欝病などの治療にかかる医療費も増加するだろう。また、職を辞さざるをえない若者が増えれば税収もマイナスになる。厚労省の立ち入り調査では、どれくらいの成果が上がるだろうか。重大で悪質な企業は送検し、社名も公表されるという。(編集担当:北条かや)