九大が大腸がんの進化原理を解明 予防と新しい治療法へ期待

2016年02月22日 08:02

 大腸がんは一つの正常な大腸粘膜細胞が遺伝子変異を蓄積しながら進化し、異常増殖することで発生すると考えられている。この遺伝子変異の組み合わせは患者ごとに異なることが明らかになっている。さらに一人の患者のがんの中でも異なる遺伝子変異の組み合わせを持つ細胞が多く存在し、一つのがんを構成していることも明らかになっている。この現象は腫瘍内不均一性と呼ばれており、がんの治療抵抗性の一因と考えられている。

 ある抗がん剤が効く細胞が一つの腫瘍の大部分を占めているとき、それらの細胞には抗がん剤が有効だが、もしその抗がん剤への耐性を引き起こす遺伝子変異を持つ細胞が存在すると、そのうち耐性細胞が増えることによってがんは再発してしまう。これまで、多くの大腸がんに関わる遺伝子変異が同定されてきたが、実際どのように遺伝子変異が蓄積されながらがんが進化するか、また大腸がんにどのような腫瘍内不均一性が存在するかは明らかではなかったという。
 
 今回、九州大学病院別府病院の三森功士教授と、HPCI 戦略プログラム 分野 1「予測する生命科学・医療および創薬基盤」プロジェクトの東京大学医科学研究所の新井田厚司助教、宮野悟教授、および大阪大学大学院医学系研究科の森正樹教授らの研究グループは、大腸がんが非常に多様な遺伝子変異を持つ、不均一な細胞集団から構成されていること、またがん細胞の生存とは関係のない遺伝子変異の蓄積による「中立進化」よってこのような腫瘍内不均一性が生まれることを明らかにした。今回の成果は、がんに対する新しい治療法や治療戦略を生み出すための基盤になると期待されるという。

 がんの進化や不均一性を明らかにする方法として、一つのがんから複数の位置の異なる部位を採取し、解析する方法がある。がんが多様なクローンから構成されていれば、複数の部位で異なる遺伝子変異を検出することが可能だ。また複数の部位に共通する異常は進化の前半に起こっており、共通しない異常は進化の後半に起こっていると推測することができる。研究グループは 9 症例の大腸がんからそれぞれ 5~21カ所、合計75カ所の検体採取を行い、このような複数の部位の大規模遺伝子変異解析を行った。

 特に今回の研究の特徴は、次世代シークエンサー等を用いて複数のタイプの遺伝子変異の不均一性を統合的に評価したことが挙げられる。その結果、大腸がんには一塩基変異、コピー数異常、DNA メチル化といった様々なタイプの遺伝子変異について高い腫瘍内不均一性が存在することが明らかになった。

 また進化の前半にみられる遺伝子変異の特徴として、加齢と関連する異常が挙げられた。この結果から、がん化に必要な遺伝子変異は私たちの体の中の正常細胞にも加齢に伴って徐々に刻まれていると考えられる。この加齢と進化初期異常の関連は、さらにアメリカの国家プロジェクト The CancerGenome Atlas によって公開されている大腸がん、約260例の大規模遺伝子変異データを、ヒトゲノム解析センターのスーパーコンピューターを用いて再解析することで検証された。

 さらに、東京大学医科学研究所の協力で、スーパーコンピューター「京」を利用してがんの進化をシミュレーションすることにより、このような高い腫瘍内不均一性がどのようにして生まれるかを明らかにした。(編集担当:慶尾六郎)