今年、本格的参入を果たして何かと話題の格安航空会社・LCC。しかし、まだまだ日本人はこのシステムに馴染みが薄いせいか、「LCCは、運賃は安いが、サービスが悪い」というマイナスの評価をなされることが多い。
確かに、LCCは従来型航空会社のサービスのように、黙っていても「至れり尽くせり」というモノではない。これまでの空の旅では当たり前のように提供されていた機内食や飲み物、荷物の運搬、果ては毛布や枕、映画、音楽に至るまで、細かくオプション扱いで有料になっているものが多い。「サービスが悪い」といわれる理由の多くはここにある。
ところが、これはLCC側が悪いのではなく、顧客の認識が間違っているといわざるを得ない。なぜなら、LCC(=LOW COST CARRIER)を和訳するのであれば、一般的に言われている「格安航空会社」ではなく、「低原価型航空会社」と訳す方が正しい。つまり、徹底して原価を抑えることで低価格運賃を実現しているのがLCCなのだから、原価のかかるサービスを求める方がどうかしている。機内食はもとより、毛布や映画も当然、そのサービスを提供するためには余分な原価がかかってしまうのだ。
そもそも、LCCには明確な定義はない。現在、日本では「ピーチ」「ジェットスター」「エアアジア」の3社が日本のLCCとされているが、たとえば大手のJALやANAが明日から「うちはLCCです」と宣言すれば、たったそれだけで業界内ではLCC扱いとなるのだ。逆に、JALやANAが早割などの格安航空券を軸にLCCを名乗って、フルサービスを提供しはじめたとしたら、料金と品質の両面で、現在のLCC各社では太刀打ちできなくなるかもしれない。
要するに、LCCは「格安航空会社」ではなく、サービスをカスタマイズできる航空サービスだと考えるとわかり易い。サービスを極力求めなければ、従来よりもコストを抑えて空の旅を楽しむことが出来るが、交通手段以外の機内サービスまで求めるのであれば、自分にとって必要なものだけをカスタマイズし、その分の料金を支払えば良いというわけだ。
そう考えれば、これまでの過剰ともいえる機内サービスが不必要だと思っていたような人には、そのコスト削減分が運賃に直接反映されるのだから、LCCは「サービスが悪い」とどころか「顧客ニーズに即した的確なサービス」と映るだろう。
また、LCCを利用する利点の一つは、路線もカスタマイズ出来るということだろう。従来型の航空会社の格安航空券や正規割引航空券の場合、往復利用が条件となっていることが多いが、LCCのチケットは通常、片道で販売されているので、自由に乗り継いでルートを構築することが出来る。たとえば片道のみ空路で、往路、もしくは復路は陸路、もしくは海路というようなルートも容易にできるのだ。
基本的に、LCCはインターネットのWEBサイトを介して自力で予約する必要があり、それを面倒だとかデメリットだと捉える人も多いが、独自の旅程を考えながら予約を抑えるという行為も「旅行の一部」と前向きに考えることができれば、楽しいだろう。
ただ、ビジネスでの利用やタイトな日程の旅行、また、他の便や交通機関への乗継などがある場合は、細心の注意が必要だ。LCCはコスト削減のために、飛行機を最小限の機数しか保有しておらず、それをフル活用させているので、もしも天候不良や機材トラブルなどの事情で発着が遅れたりすると、それがたとえ自分が乗る便でなくても影響が出る可能性が高い。ひどい場合は欠航することも覚悟しておいた方が良い。その際、代替便などは、まず出ないと考えておいた方が無難だろう。
こうしてみてみると、LCCは単に低価格の運賃だけで利用しようとするのではなく、サービスや旅程をある程度自由にカスタマイズできるというメリットと、不慮の事態が起こった場合には旅程そのものが崩壊するかもしれないというデメリットを充分に考慮した上で、選択する必要があるだろう。さらには、LCCがまだ始まったばかりの数年の間は、そのデメリットすらも楽しめる旅行上級者向けの航空プランといえるかもしれない。