映像の高画質化が進み4K、8Kと高精細化が進んでいる。4Kについては対応のTVも数多く発売され、すでに市民権を得ようとしている。しかし、その上を行く8Kについてもすでに開発が進んでいる。8K映像は、従来のハイビジョンの16倍にあたる3,300万画素の超高精細画像で、その密度は人間の網膜に迫ると言われている。
そして、今回8K技術を医療機器に応用しようという試みが行われる。その実用化により、がん手術がより精密かつ繊細に行えるようになり、腹腔鏡手術をはじめとする内視鏡手術の安全性と根治性を一層向上させ、医療経済へも良い影響をもたらすなど、医療現場に大きな変革が期待される国家プロジェクトだという。
国立研究開発法人国立がん研究センター、一般財団法人NHKエンジニアリングシステム、オリンパス<7733>、NTTデータ経営研究所は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 『8K等高精細映像データ利活用研究事業』の支援により、8Kスーパーハイビジョン技術を用いた新しい腹腔鏡手術システムの開発と高精細映像データの活用を検討する研究を開始する。
腹腔鏡手術の件数は、近年、急速的に増えている一方で、モニターに画像を映し出して手術を進めるため、画質が手術の質に影響したり、手術操作の制限や死角が発生することで、開腹手術と同等の質が担保できない場合や術中偶発症の発生が問題となることがあるという。例えば、従来の腹腔鏡は視野が狭く、空間認識も困難であることから、腹腔鏡と周りの手術器具と衝突するリスクもあり、術中の臓器損傷の発生率が開腹手術の2倍に上るとの報告もある。
このプロジェクトでは、このような課題を解決するため、光学性能の改善やカメラのさらなる高感度化と小型・軽量化、さらに8Kによる広域表示と術者の意向に従ったズームアップの表示も同時に行う技術開発に取り組む。
また医療機器においては、外国資本が圧倒的シェアを占めているのが現状でだが、8K技術はNHKで開発された日本発の技術である。医療提供・研究を行う国立がん研究センターと腹腔鏡手術システム開発行うNHKエンジニアリングシステム、オリンパス、データ解析を行うNTTデータ経営研究所が共同で取り組むことにより、周辺機器や高精細映像データを活用した新規診断法の開発など、世界へ向けた次世代の腹腔鏡の規格確立を目指す。
平成29年度中に新腹腔鏡手術システムの試作品完成、動物実験等による試作品の基本性能向上および実証を行い、人を対象とした試験の開始を目標とする。また、得られた腹腔内の臓器映像やがん腫の微細構造の観察画像と、実際に切除して得られた標本の病理学的解析結果の対比を組み合わせとした高精細映像を症例ごとにデータベース化し、日本内視鏡外科学会の客観的、技術的評価と助言も受け、新規診断法開発への活用を検討するという。
そして、平成30年度には実用化・普及に向けた具体的な計画や、収集したデータを用いた医療上の有用性、病院間でのデータ共有と有効性におけるとりまとめも行う方針だ。(編集担当:慶尾六郎)