電子書籍ビジネスに、意外な異業種企業が進出

2012年03月12日 11:00

 4月2日、講談社、小学館、文藝春秋など大手出版社20社が共同で出資し、200社以上の出版社が設立に賛同する「出版デジタル機構」が発足する。設立準備会は「当面100万点の電子書籍化が目標」とアナウンスしている。出版科学研究所の統計では2010年の新刊発行点数は7万4714点だったので、近い将来、新刊書のほとんどは電子化され、書店の棚に並ぶ出版物と同内容のものを電子書籍で読めるようになる。2012年こそ、真の意味での「電子出版元年」と言えるだろう。

 野村総合研究所が2010年12月に出したレポートによると、2010年度は850億円の電子書籍コンテンツの市場規模は、2015年度に約2.8倍の2400億円に成長し、その間に電子書籍を読める端末が1400万台普及するという。年間平均成長率は23.1%で、電子商取引(10.0%)、音楽配信(9.6%)、モバイルコンテンツ(3.0%)を大きく引き離す有望市場と位置づけられている。

 電子書籍は「出版とITの結婚」と言われるように、従来の出版、印刷産業だけでなくハードウェア、デジタルコンテンツ制作、システムインテグレーターなどのIT産業が広く、深く関わっている。

 たとえば電子書籍を配信して収入を得るビジネスには、出版社や新聞社、書店、印刷会社だけでなく、NTTドコモやKDDIのようなモバイルキャリア、ソニーや東芝、富士通フロンテックのような総合電機系、アマゾンやヤフーや楽天のような大手ネット企業、さらに無数のベンチャー企業が続々と参入し、乱立気味。電子書籍のコンテンツ制作では専門出版社、大手印刷会社から少人数のクリエーター集団まで入り交じり、オリジナリティを競っている。ITで電子書籍の制作、配信、閲覧をサポートするビジネスも、シャープ、富士通、NTTデータのような大手からベンチャーまで幅広い企業が揃い、ハードウェアでもソフトウェアでも独自の技術力をアピールしている。

 その中に、本業は出版にもITにも縁が薄く、「えっ?」と思えるような異業種企業が入っている。たとえば、電子書籍ビジネスの表舞台に立つ配信事業には、楽器のヤマハ、資格教室のTACが参入している。ヤマハは楽譜や教則本、TACはテキストという形で紙の出版物と全く無縁ではなかったが、何よりも演奏家や音楽教室の生徒、受講生といった「販路」を持っている強味を活かせるのが大きい。3月にセブン&アイ・ホールディングスが、好調なネットショッピングのインフラを利用して電子書籍配信に参入したのも、純粋に「販路からの発想」だろう。強い販路を持っていれば電子書籍の立ち上げ段階で一定数の「固定読者」が見込めるので、配信業者が乱立する中でも単年度黒字化の見通しがつきやすく、堅実なビジネスプランで新規参入ができる。大激戦の電子書籍市場の行方を占う上で「販路」はキーポイントになりそうだ。

 電子書籍のコンテンツ制作に総合商社の伊藤忠商事が参入しているのも目を引くが、同社には以前からコンテンツや知的財産権を重要な「商材」とみなし、音楽配信、映画やテレビアニメの製作、イベントの企画などに積極的に関与してきた実績がある。その延長線上と考えればそれほど不思議でもない。電子書籍をサポートするハードウェア、ソフトウェアになると、タイヤメーカーのブリヂストンが端末用の電子ペーパーを供給し、下着メーカーのグンゼが端末用のタッチパネルを供給するなど、意外な関わりがゾロゾロ出てくる。今後、電子書籍市場が急成長すれば、「風が吹けば桶屋が儲かる」式に、インフラの部分に関わる意外な異業種企業が恩恵に浴することもあるだろう。

 かつて、ディスコの経営者が介護ビジネスに参入したり、給食の会社がカラオケボックスに参入したように、急成長が見込めるホットな市場は異業種からの参入が活発になるもの。今後、どんな業界のどんな企業が電子書籍ビジネスに参入するか、興味は尽きない。