「ハラスメントを恐れて何も言わない上司」「残業をさせないことが正義とされる現場」。2026年、日本の職場はかつてないほど「優しく」なった。しかし、その優しさと反比例するように、若手の離職率は高止まりを続けている。なぜ、居心地が良いはずの職場から、有望な若手ほど去っていくのか。そこには、上司の「優しさ」という名の「忖度」が、若手の未来を奪っているという深刻なミスマッチがある。
■30年以上変わらない「3年で3割」の構造
厚生労働省の「新規学卒就職者の離職状況」を詳しく見てみると、大卒者の3年以内離職率は、1990年代前半から2026年現在に至るまで、30年以上にわたって3割前後という水準で横ばいの推移を続けている。バブル崩壊、リーマンショック、およびパンデミック。日本経済が激震に見舞われた時期も、働き方改革が進んだ時期も、この「3割」という数字だけは、まるであらかじめ決まっていたかのように変わっていない。
しかし、数字は同じでも「辞める理由」は決定的に変化した。リクルートワークス研究所の分析によれば、かつての離職理由の主流だった「人間関係」や「過重労働」は減少し、代わって「この組織にいても自分の市場価値が上がらない」というキャリア不安が急浮上している。2026年の若手にとって、ホワイトすぎる職場は、自身の成長が止まる「ゆるい職場」という名のリスクとして捉えられているのである。
■忖度ではなく「市場価値への投資」を
2026年、優秀なマネージャーとして評価されているのは、単に部下の機嫌を取る上司ではない。部下の時間を「単なる労働」ではなく、将来への「投資」に変えられるリーダーだ。
日本能率協会のマネジメント調査によれば、エンゲージメントが高い組織の特徴として、上司が部下に対し「現在の業務が、将来のどのスキルに繋がっているか」を明確に示している点が挙げられる。若手が求めているのは、耳に心地よい言葉ではなく、厳しいフィードバックを含めた本気の指導である。それは、上司が部下の人生に対してリスクを取り、成長というリターンを約束する投資そのものだといえる。
■2026年、マネジメントの本質が「守り」から「攻め」へ
これまで多くの職場では、良い環境とは「不満やストレスのない場所」であると考えられてきた。しかし、今の若手が切望しているのは、単なる居心地の良さではなく、自らの限界を少しだけ押し広げるような「健全な負荷」を伴う経験だ。
若手の意欲を繋ぎ止めているのは、単なる作業の割り振りではなくプロジェクトの初期段階から企画に参画して試行錯誤する「正解のない問い」への挑戦や、社内調整に終始するのではなく、顧客や異業種のプロフェッショナルと直接対峙して自分の実力を試す「外部との真剣勝負」の場である。
そして何より、上司との「信頼に基づいた挑戦」が欠かせない。それは、上司が最終的な防波堤として控える一方で、部下自身も自らの判断で物事を動かし、結果に対して真摯に責任を負う覚悟を持つという相互の約束である。自由には責任が伴うことを自覚し、泥臭く結果を追い求める若手の姿勢があってこそ、上司は初めて、単なる忖度ではない「真の投資」としての機会を託すことができるのだ。
2026年、私たちが向き合うべきは「離職」という現象そのものではなく、その奥にある若手の「成長への飢え」である。居心地の良さだけを提供することが、果たして本当に部下のためなのか。表面的な優しさの先にある、共に壁を乗り越える強さこそが今、マネジメントに求められている。
部下の将来に責任を持ち、本気でぶつかり合いながら「市場価値」という名の武器を持たせる。その覚悟を持った指導こそが、今の若手が切望している「自分への投資」に他ならない。優しさの意味を再定義し、部下の人生を真剣に背負う勇気を持つこと。その一歩が、停滞する日本企業を再び活性化させ、次世代と共に歩むための確かな鍵となるのではないだろうか。(編集担当:エコノミックニュース編集部)













