血管は全身の様々な臓器や組織に備わっており、その形成・維持はもちろん、がん、創傷治癒など様々な病態においても多彩な役割を果たし、ヒトの生老病死の全ての過程に深く関与している。血管の内腔を一層に覆う血管内皮細胞は、血管機能の中心的役割を果たしており、様々な実験研究に応用されているという。従来ヒト血管内皮細胞を用いた研究には、ヒト臍帯などから採取された内皮細胞が多用されていたが、細胞により性質や反応が異なり一定の結果が出ないなどの欠点があった。
また近年、多能性幹細胞から大きな臓器・組織を作り出す研究が進められているが、臓器が大きい場合には血管も同時に作れなければ、内部の細胞は酸素や栄養が十分に供給されずに死んでしまうこともある。そうしたことを回避し幹細胞から高度な組織を作るために、ヒト多能性幹細胞から効率よく血管内皮細胞を誘導する方法は重要だ。
京都大学の山下潤教授(CiRA 増殖分化機構研究部門)らの研究グループは、ヒト多能性幹細胞から高効率に血管内皮細胞を作る技術を開発した。細胞の分化誘導方法を確立し、血管新生に関わる増殖因子のひとつVEGFが血管内皮細胞への誘導に必要であり、様々な生体機能に重要な役割を持つ化合物であるcAMPがその効果を高めることを示した。これらのノウハウを応用し、ヒトiPS細胞からの効率的な内皮細胞誘導を試みた。
VEGFとcAMP を用いて分化のステージに応じた刺激を与えるともに、刺激後早いステージでVEGF+cAMP刺激に反応しない細胞を取り除き、血管内皮細胞へと分化誘導した。すると、途中で細胞を取り除かない場合と比較して高い効率(純度99%以上)と収量で血管内皮細胞へと分化できた。得られた内皮細胞は、臍帯静脈内皮細胞などよりやや幼若で、種々の内皮細胞にさらに分化成熟しうるポテンシャルを有するものと思われるという。
今回、99%と高い効率で血管内皮細胞へと分化させることに成功した。この技術は再生医療や3次元組織構築に広く利用されることが期待されるという。既にこの技術を利用して作製した血管内皮細胞を使って、CiRAの山水康平特定拠点助教と山下教授らのグループが血液脳関門のモデルの作製に成功している。なお、研究で得られた血管内皮細胞の作製技術を用いて、タカラバイオが iHeart Japan と研究用血管内皮細胞製品を共同開発し、昨年より販売を開始している。新たな研究用ツールとしての応用が期待されるとしている。(編集担当:慶尾六郎)