職人たちの意地と誇りのぶつかり合い! 壁-1グランプリってなんだ?

2020年11月08日 07:33

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今年のカベワンGPを制したのは、木造注文住宅メーカーの株式会社アキュラホームが率いる「アキュラ・チーム匠」

 すっかり年末の好例となった、漫才の祭典「M1グランプリ」。年末の特番を楽しみに待っている人も多いのではないだろうか。ほとんどの視聴者は年末の特番で行われる決勝戦の様子しか見ることはないだろうが、実は芸人たちの間では、日本全国の会場で早くも夏から一回戦、二回戦が開催されており、決勝戦出場をかけた戦いが始まっているという。

 M‐1といえば、昨年は長年下積みを送ってきた「ミルクボーイ」や「ぺこぱ」らのベテラン漫才コンビが優勝争いを繰り広げ、その結果、大ブレイクを果たした。新型コロナ感染拡大の暗い世情の中でも明るい笑いを届けてくれて、今でも八面六臂の大活躍をしている。後輩芸人たちは彼らの成功に憧れるとともに、長年の努力が報われた姿に自身の大きな夢を重ねたことだろう。また、芸人でなくとも、彼らが苦労の末に掴んだ栄光に励まされた人も多いのではないだろうか。

 そんなM‐1グランプリは開催以来、演芸界や芸能界以外でも大きな影響を与え続けている。例えば、日本の伝統的な建築技法である木造住宅建築の世界で「壁」の凄さを競い合う、「壁‐1グランプリ」(以下、カベワンGP)という大会があるのをご存じだろうか。

 カベワンGP は、壁‐1グランプリ実行委員会がM‐1と同じく年に一度、この時期に開催しているもので、実物大の木造耐力壁を組立て、2体ずつ足元を固定した状態で桁を互いに引き合わせ、どちらか一方の壁が破壊するまで行う対戦形式のトーナメント大会だ。毎年、住宅メーカーだけでなく、木造建築を手掛けるゼネコンや大学、専門学校の研究者グループなどによる約20チームほどが参加している。北は宮城県から南は沖縄県まで、全国の「木造住宅のこれから」を担うチームが日本一の耐力壁の栄冠を勝ち取るため、職人の意地と誇りをかけて戦う。今年も10月24日と25 日の2日にかけて、埼玉県行田市 の「ものつくり大学」で開催された。コロナ禍とあって8チームのみの限定開催となったものの、例年に劣らず大いに盛り上がったという。

 今年のカベワンGPを制したのは、木造注文住宅メーカーの株式会社アキュラホームが率いる「アキュラ・チーム匠」。アキュラホームグループのカンナ社長こと宮沢俊哉氏率いる同社の職人たちを中心に、東京大学木質材料学研究室の稲山正弘教授、木材加工の篠原商店による産学共同チームだ。

 カベワンGPは、強さを競うトーナメントだけではなく、デザイン性や施工性、コストや環境性などの総合力での総合優勝もあり、「アキュラ・チーム匠」は今回、耐力壁「閃~ヒラメキ~」でトーナメント優勝とともに総合優勝も獲得。二冠を達成した。加えて、部門賞も5部門のうち、独創性、文化性、意匠性の高い耐力壁に贈られるデザイン部門賞、加工・施工費が最も低く、環境負荷も小さい耐力壁に贈られる加工施工部門賞、当日の観客や視聴者から最も支持を集めたオーディエンス部門賞の3部門で受賞。しかも「アキュラ・チーム匠」は、カベワンGPの前身である「木造耐力壁ジャパンカップ」から数えて、4年連続、通算7回目の総合優勝となり、過去の優勝最多記録を更新。2010年以来、史上2度目の二冠獲得を果たしている。耐力壁の世界では、まさに不動の王者なのだ。

 とはいえ、今回の大会では苦しい場面もあった。一回戦で過去に4連覇を達成したこともある滋賀職業能力開発短期大学校と対戦し、強豪との激しい対決に粘り勝ちしたものの、初戦から大きなダメージを受けてしまった。その後の戦いでも満身創痍になりながら勝ち上がっていく姿は、「壁」と言えども、熱いものがこみあげてくる。きっとそこには、職人たちの本気の想いが込められているからだろう。

 結果的には、王者が圧倒的な強さを見せつけたわけだが、M-1グランプリの優勝者同様、彼らの強さは、それまでに彼らが培ってきた経験と努力、挫折と発見の上にあるものだ。

 「アキュラ・チーム匠」を率い、自らも耐力壁の解体作業に参加したアキュラホームの宮沢社長は授賞式で、参加チームと業界の若い世代の職人たちに向け「いつか私たちを越えてほしい」と語った。強くて熱くて凄いオヤジたちの背中。芸能界や木造住宅業界に限らず、今の時代、そんな憧れや目標となる存在が求められているのかもしれない。(編集担当:藤原伊織)