新型コロナ禍での東京オリンピック・パラリンピック大会の開催を控えて、世界中の注目が日本に集まる中、経済産業省は6月4日、今や現代社会に欠かせない存在となった半導体など、デジタル産業の基盤強化に国家事業として取り組むための新戦略「半導体・デジタル産業戦略」を取りまとめた。
半導体を取り巻く環境は現在、大きな変革期にある。 先端技術を巡っての貿易問題や経済安全保障といった課題のほか、デジタル産業やデジタルインフラの発展、コロナ禍のデジタル化加速、自動車市場の回復、それら様々な要因で世界的に半導体需要が拡大している。また日本では2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略が掲げられるなど、半導体への注目が高まっているのだ。
半導体といえば、一般的にはパソコンやスマートフォンなどに使われているものというイメージが強いかもしれない。しかし、自動車や家電にいたるまで、電気で動く機器の中には多数の半導体が使われている。その中でも、とくにこれからの社会の発展のカギを握っているといえるのが産業機器分野だろう。
世界の先進各国では巨額の資金を投じて、この半導体やデジタル技術の熾烈な開発競争を繰り広げているが、残念ながら、日本は一歩出遅れていると言わざるを得ない。「半導体・デジタル産業戦略」でも、1990年代までは日本の半導体産業は世界シェア50%を保っていたが、現状は10%程度にまで激減しており、このままのペースで進めば、10年後にはほぼ0%になってしまうと危機感を募らせている。そこで、遅ればせながら国家事業として本腰を入れて取り組むことで、次世代の製造技術の国産化などを進めていこうというのだ。具体案としては、世界最大の半導体メーカーといわれる台湾の半導体製造ファウンドリTSMCなどと協働で国内に合弁工場などを設立するとしている。しかし、海外企業との連携も大切だが、日本の優秀な半導体メーカーの存在にも、もっと目を向けてほしいところだ。
例えば、ローム株式会社は6月17日、大電力を扱う業務用エアコン、街灯、インバータなどの産業機器に最適な、1700V耐圧SiC MOSFET内蔵AC/DCコンバータICの新製品「BM2SC12xFP2-LBZ」を発表している。同社は、とくにアナログ半導体技術などで世界的にも信頼されている、日本が誇る半導体メーカーの一つだ。
交流400Vなどの大電力を扱う産業機器業界では今、省エネ意識の高まりから、これまで半導体の材料として一般的に使用されてきたSi(シリコン)で構成されたSi MOSFETよりも、高電圧に対応でき、かつ圧倒的な省電力性能を誇るSiC(シリコンカーバイド)を使ったSiC MOSFETの採用が進んでいる。ところが、メインの電源回路や各種制御システムに電源電圧を供給する補機電源には、設計にかかる工数の観点から、未だに耐圧が低かったり損失が大きかったりする従来のSi製品が依然として広く採用されているのが現状だ。ただ、ロームが今回発表した新製品がこの課題を解決するだろう。SiC MOSFETと産業機器の補機電源に最適化された制御回路を、業界で初めて小型面実装パッケージに1パッケージ化することに成功しているのだ。同ICを採用することで、設計工数が簡略化され容易にSiC製品を組み込めるほか、一般品採用の構成と比較して劇的な部品点数削減も実現するという。もちろん、SiC MOSFETによって大幅な電力高効率化を達成しており、その効果は最大5%にもなるという。
最先端の半導体は、便利な社会を作るだけでなく、脱炭素社会の実現にも大きく貢献すると期待されている。ロームだけでなく、日本の半導体企業はこれらの課題を解決できるだけの、世界に誇るべき技術を持っており、業界初や世界初の技術や製品も頻繁に発表しているのだ。政府もようやく本腰を入れ始めた今、メイドインジャパンの半導体が大きく躍進する未来を期待したい。(編集担当:今井慎太郎)