半導体のうち電源部(パワー・スイッチ)に用いられる半導体をパワー半導体と呼ぶ。自動車など輸送用機械や産業用機械にはなくてはならないものだ。パワー半導体はスイッチング部分だけでなく電圧や電流、周波数の変調も行うので、パソコンやエアコンなどの家電、ACアダプターなどその用途は多岐にわたる。パワー半導体は大きな電圧を扱うため、それが熱に変換されるエネルギーの「損出」が生じる。これまでパワー半導体の99%以上がシリコンを素材にして作られていたが、現在、次世代素子とも呼ばれ、電力損出を抑える新しい素材のパワー半導体として注目されているのが「SiC(炭化ケイ素)パワー半導体」だ。熱の放出が少ないため放熱システムを機器に埋め込む必要も無くディバイスの小型化にもつながる。
6月10日、市場調査業の富士経済が「次世代パワー半導体・シリコンパワー半導体の世界市場調査」の結果レポートを発表している。レポートによれば、SiCパワー半導体については、新型コロナの影響で2020年は開発案件が延期になるケースなどもあったが、サーバー電源などの情報通信機器分野やエネルギー分野での需要が堅調だったため、例年より減速したものの市場はプラス成長となったようだ。
用途別にみると、やはり自動車・電装や情報通信機器分野のウエイトが高くなっており、今後は自動車電装化でDC-DCコンバーターやオンボードチャージャー、インバーターモジュールの需要が伸び、自動車・電装分野のウエイトはさらに高まっていくと見込まれる。エリア別では、TeslaのEV向けのウエイトが大きく、現在のところ北米中心だが、今後は欧州のウエイトが徐々に高まっていく見通しだ。
自動車・電装分野においては、SiC-SBDが低価格化に伴いシェアを伸ばし、長期的にFRD(高速ダイオード)に置き換わっていくものと見込まれている。シリコンパワー半導体からSiCパワー半導体へのシフトについては、FRDからSiC-SBD(ショットキーダイオード)へ、高耐圧パワーMOSFETからSiC-FETへ、IGBTモジュールからSiCパワーモジュールへの置き換えという推移になりそうだ。
20年の世界市場は493億円と推計されており、30年には1859億円と20年比3.8倍までに拡大するとレポートでは予測している。(編集担当:久保田雄城)