コロナ禍で大企業の早期・希望退職者募集が高水準となっている。コロナ禍での業績不振が背景と見られる募集が主流となっているものの、一方で業績悪化のない大企業が中長期的な視点から大規模募集を行うケースも目立ってきた。コロナ禍で経営環境は大きく変化しているが、アフター・コロナをにらんだ構造改革的な大規模リストラが今後増えて行く可能性もある。
11月12日、東京商工リサーチが「2021年1-10月上場企業『早期・希望退職』実施状況」の調査結果レポートを公表している。これによれば、21年の上場企業の早期・希望退職者募集は10月31日までに企業数72社、人員規模1万4505人と判明している。前年同期から企業数で1社、人員で1137人の減少となっているものの、実施企業は10月末時点で2年連続の70社超えとなっており高水準が続いている。
業種別では、テレワーク普及や外出自粛などの影響で販売不振が長引いている「アパレル・繊維製品」が10社で最多、サービス業の「観光」では10年ぶりに募集企業が現れ4社となっており、運送は6社のうち5社が鉄道・航空の「交通インフラ」となっているなど、やはりコロナ禍の影響が大きい業種が目立っている。直近決算をみると、72社の61.1%にあたる44社が赤字となっており、アパレル関連(10社)、観光(4社)、外食(4社)はすべて赤字となっている。
募集人数では、パート従業員と子会社の従業員を合わせて計2950人の日本たばこ産業が最多、次いで本田技研工業の2000人、KNT-CTHDが1376人と続き、1000人以上の募集企業は合計5社にのぼっている。これは金融危機時の01年の6社に次ぐ20年ぶりの高水準だ。5社についてレポートは「業務の効率化や中長期的な経営見直しで全社的な募集が目立つ」としている。一方で募集人数100人以下は36社で募集企業の半数を占め、募集規模の「二極化」が進んでいるようだ。レポートは「業績悪化を理由にした中堅企業の小規模募集と大企業の大型募集の二極化はアフター・コロナに向けた新たな潮流となる可能性が高い」と指摘している。また、本田技研工業、パナソニック、近鉄グループHDは募集・応募人数を資料で開示していない。レポートは「大規模な社員の退職は株主以外にも社員、取引先などのステークホルダーにとっても関心は高い」、「人事面での透明性が今後は求められる」と指摘している。(編集担当:久保田雄城)