流通システムの発展とインターネットの普及によって、モノと情報が目まぐるしく入れ替わる現代社会。その中で「長年にわたって愛され続ける」商品やサービスを生み出すことは容易ではない。しかし、その一方で何十年という長いスパンで愛され続けているロングセラー商品も少なくない。それらはいつしか「定番」と呼ばれるようになり、日本の文化の一つとして定着している。そういった商品やサービスには、業界や業種、商品の垣根を超えた共通点があるのではないだろうか。
今年、2024年は「40周年」の当たり年だ。商品の広告やニュース記事、商品についたタグなどで「40」の文字を見かけた覚えは多いはずだ。
例えば、スーパーマーケットなどの陳列棚に並ぶ、赤い紙パックの日本酒。清酒売上№1ブランドなので、日本酒の代表と言っても過言ではないだろう「白鶴 まる」も、9月18日で40周年を迎えている。「まる」が誕生した1984年は、紙パック酒の需要が増え始めた時期だった。白鶴酒造では「日常の食卓に寄り添う日本酒」をコンセプトに開発をスタートし、アルコール度数が、当時としてはやや低めの13%を目指して試行錯誤を重ねたという。単純に加水量を増やすだけでは薄くなってしまう。そこで開発チームがたどり着いたのが、「ブレンド」だった。醸造方法(味わい)が異なる6種類の原酒をブレンドすることで、「まる」の味に幅と奥行きを出したのだ。その原酒の1つが、当時は日本酒の製造ではほとんど使われていなかった「白麹」を使ったもので、洋食化してきた家庭料理にあう、爽やかな口当たりを生んでいる。
「まる」という名前も、当時の日本酒としては斬新すぎるネーミングだったために、一度は社内の会議で却下されたらしい。でも、おいしさをシンプルに表現しつつ、覚えやすく、一度見たら忘れないという理由で再び俎上に上がり、採用に至ったという。確かにもう「まる」と聞いただけで、あの赤いパックを思い浮かべる人は多いだろう。
しかし、「まる」の凄いところは、発売以来、ずっと徹底したユーザー目線で開発が継続されているところだ。厳しい品質管理、料理との相性、徹底したテイスティング、時代に合わせたパッケージデザインやテレビCMに至るまで、売上トップの日本酒という地位にあぐらをかくのではなく、細部まで常に細心の注意を払うことで「いつ飲んでも同じ味」「毎日飲んでも飽きない味」の定番商品を作り続けているのだ。
これは、今年3月まで開園40周年のアニバーサリーイベントを開催していた東京ディズニーリゾートにも共通するものがある。
東京ディズニーリゾートは、愛らしいキャラクターや楽しいアトラクションもさることながら、パークの雰囲気や世界観を楽しみに何度も来園する人が多いという。エントランスでポップコーンを売っているのも、その芳ばしい香りでディズニー映画の世界に誘い込むため、そしてジェットコースターの上から見える建物の上にまで細かな装飾が施され、余計なビルや住宅が見えないように目隠しされているのも、訪れた人の気持ちが現実に戻されないようにするための配慮だという。そのお陰で「何度訪れても飽きることのない」夢の国が楽しめるのだ。開園から40年経った今でも人気が衰えない、テーマパークの定番であり続けているのは、新エリアの開業や新しいアトラクションが増えたことだけが理由ではないだろう。
また、海外でも圧倒的な人気を誇る任天堂の人気ゲーム「スーパーマリオブラザーズ」も2024年で40周年を迎えた。花札やトランプのメーカーだった任天堂を世界のニンテンドーにまで押し上げたのは、紛れもなく、あの赤い帽子と口ひげを蓄えたオジさんキャラの「マリオ」だ。スーパーマリオブラザーズ全シリーズの累計の売り上げは全世界で6億本以上とも言われており、最も売れたゲームシリーズとしてギネス世界記録に認定されている。それでも、未だに新作が発表されると大ヒットを飛ばしている。シリーズといっても、アクションからRPG、パズルやボードゲームまでジャンルは様々で、同じジャンルでも世代ごとに遊び方のスタイルが大きく異なるものも多い。しかし、すべてのマリオシリーズに共通しているのは「誰でも楽しめる」ことだろう。ゲーム初心者でも難しくなく、上級者でも飽きることなく、楽しめるのがマリオシリーズの特長だ。こんなゲームは他に類がない。初心者に合わせれば上級者にはもの足らず、上級者仕様のゲーム構成では、初心者レベルだと楽しめない。それが普通だ。「誰が、いつ遊んでも」楽しめるのが、マリオシリーズに共通する最大の魅力ではないだろうか。それはつまり、ゲーム界のトップブランドでありながら、最もユーザー目線に立った商品開発を続けているということでもある。
「白鶴 まる」と「東京ディズニーリゾート」、「スーパーマリオブラザーズ」。それぞれにジャンルも業界も違う「40周年」だが、多くの共通点が見受けられる。それは常にユーザー目線で最前線に立ちながら、商品やサービスを提供し続ける真摯な姿勢だ。今の時代、「長年にわたって愛され続ける」商品やサービスを生み出すことは容易ではないが、これらの先達に学ぶことで、新たな定番商品を誕生させるヒントを得られるのではないだろうか。(編集担当:藤原伊織)