年末年始のテレビに視聴者が回帰。今だから見直される「CM」の戦略的価値

2025年12月27日 10:33

030 フジテレビ_e

年末年始の広告枠は、単なる宣伝以上の意味を持つ

 「テレビ離れ」が進んでいるといわれている昨今の放送業界。とはいえ1年で最も「テレビの前に家族が集まる」年末年始は、各局にとって依然として最大の商機であることは間違いない。年末年始の特番や箱根駅伝などの番組には、普段テレビを離れている層も戻ってくる。また、毎年この時期に集中して放映され、視聴者に年の瀬や新年を感じさせるCMは、企業のブランド戦略において重要な役割を果たしている。

 年末年始の広告枠は、単なる宣伝以上の意味を持つ。例えば、家族が集まるタイミングに合わせて、企業姿勢や社会貢献を伝える「ブランディングCM」を積極的に展開しているのが、空調機、化学製品メーカーのダイキン工業や、産業機械、環境機器などの大手メーカー、クボタだ。普段はBtoBの印象が強い企業であっても、親戚一同が揃うお正月にCMを流すことで、親世代や就職活動を控えた学生への信頼感を醸成する狙いがある。また、帰省した実家で自分が働いている会社のCMが流れたら、少し誇らしくもあり、就労意欲の向上にも繋がることだろう。

 また、数あるCMの中でも、冬の季節に特に感情を刺激されるのが、日本酒のCMだ。例えば、元気な「まる!」の掛け声やポーズでお馴染みの、白鶴酒造の「白鶴 まる」のCMに、冬のイメージを持っている人も多いのではないだろうか。日本酒の需要は、忘年会やお正月、そして寒冷期という要因が重なる12月から1月にかけて年間最大のピークを迎える。そんなタイミングで流れる「白鶴 まる」のCMは、やはり一番心に残る。

 しかも、ただでさえ日本酒が恋しくなる季節なのに、「白鶴 まる」のCMでは、日本酒と一緒に、相性の良い魚介料理を美味しそうに楽しむシーンが繰り返し映し出されるので、消費者の購買意欲はダイレクトに刺激される。すると、買い物に出かけた際、魚売り場の旬の刺身や魚介に目がとまり、酒類売り場の前を通った時にはついつい「今夜は日本酒にしよう」と手を伸ばしてしまうのだ。さらに、仲間とともに賑やかに食卓を囲み、笑顔で乾杯する様子は、忘年会や新年会ともリンクし、「日本酒が人と人をつなぐ存在」であることを認識させてくれる。企業のCMとしては、極めて投資対効果の高い戦略と言えるだろう。

 動画配信サイトやSNSなどの台頭で、テレビは「オワコン」と揶揄されることも多い。しかし、世の中の多様化(もしくは「ライフスタイルの変化」)が加速する一方で、年末年始のテレビCMが持つ「季節感」や「共感」という価値は、むしろ希少性を増しているようにも思える。世代を超えた「同時体験」を生むテレビCM。白鶴のようなアプローチは、現代においても「最強の販促策」として機能し続けるのではないだろうか。(編集担当:今井慎太郎)