今回のニュースのポイント
取適法施行後も「価格協議」は増えず:Sansanの調査によると、受注側の約6割が施行後も価格協議の機会が増えていないと回答。法律による後押しがある一方で、実際の交渉現場は依然として動きが鈍い現状が明らかになりました。
発注側の9割が対応進めるも、6割に課題:委託事業者(発注側)の87.4%が法対応を進めているものの、そのうち約6割が「対象企業の特定」などに課題を感じています。制度を実務に落とし込む際の情報収集の煩雑さがネックとなっています。
「契約情報の可視化」が交渉の鍵:受注者の72.1%が「契約書が手元になく交渉をためらった」経験を持つなど、書類管理の不備が交渉の前提を崩しています。制度の定着には、契約データをデジタル化し、現場が即座に参照できる環境づくりが不可欠です。
中小企業と大企業の取引において、コスト増を適切に販売価格へ反映させる「価格交渉の適正化」は、日本経済の長年の懸案事項でした。この課題を解決すべく、いわゆる下請法の改正により名称が変わった「中小受託取引適正化法(取適法)」が、2026年1月1日に施行されました。この法律は、従来の枠組みを強化し、一方的な価格決定の禁止や取引条件の書面明示を義務付けることで、中小企業の立場を改善し、賃上げの原資となる利益を確保させることを狙いとしています。制度の整備が進む一方で、現場への浸透にはなお時間を要している状況です。
こうした中、Sansanが施行から3カ月後に行った実態調査では、制度と現場の深刻なギャップが浮き彫りになりました。受注者の4割強は「価格協議が増加した」と回答した一方、6割は「増えていない」と答えています。対して発注側にあたる委託事業者の法務担当者のうち、87.4%が「取適法への対応を行っている」と回答しており、表面上は対応が進んでいるように見えます。しかし、発注側の約6割が、法対象となる中小受託事業者の特定に苦慮しており、企業情報の収集という実務的な壁にぶつかっています。
なぜ現場で価格交渉が進まないのでしょうか。その本質的な理由は、契約情報の「不透明さ」にあります。調査では、受注者に「取引条件を明示した契約書や発注書が手元にないために価格交渉をためらった経験があるか」を尋ねたところ、72.1%が「ある」と回答しています。交渉のテーブルに着くためには、現在の契約条件や過去の変更履歴という「根拠」が不可欠ですが、多くの現場ではそれらが整理・共有されていません。また、改正で資本金に加えて従業員数による判定が加わったことで、「どの取引先が取適法の対象となる中小受託事業者か」を個別に調べる手間が増えたことも、現場の負担感につながっています。
この停滞を打破する鍵として注目されているのが、契約管理サービスやデータ活用ツールといったデジタル技術です。Sansanのクラウド契約管理サービス「Contract One」は、紙・電子を問わず契約書をデータ化し、取引先の資本金や従業員数などの企業情報と紐付けることで、「取適法の対象企業の特定」や取引条件の可視化を支援する仕組みとしています。これまで「法務のコスト」と見られがちだった契約管理が、今や適正な収益を確保するための「戦略的投資」へと変質しており、「法対応×DX」が企業競争力の新たな源泉となりつつあります。
この問題は、単なる企業間の取引ルールの話にとどまらず、私たちの生活に直結するテーマです。適正な価格交渉が進まなければ、原材料やエネルギー価格の上昇分を中小企業が飲み込み続け、結果として従業員の賃上げ余力が奪われてしまいます。巡り巡って、地域経済の停滞や消費の冷え込みという形で、私たちの生活実感に悪影響を及ぼします。逆に言えば、デジタルの力で交渉の土台が整い、適正な価格転嫁が循環し始めることは、実質賃金の底上げに向けた不可欠なプロセスでもあります。
今後の焦点は、法律の施行という「号令」の後に、企業がいかに実務をアップデートできるかに移ります。単に規定を設けるだけでなく、現場の担当者が「いつでも正しい契約情報を参照し、対等に話せる」仕組みを構築できるかどうかが問われています。取適法はあくまでスタートラインに過ぎません。ニュースを見る際も、表面的な法遵守の姿勢だけでなく、企業の「契約管理の高度化」がどこまで進み、それが現場の交渉行動をどう変えたかという実態に注目することが、日本経済の健全な新陳代謝を見極めるポイントになるはずです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













