リコーが図表読解に強い生成AIを開発。企業データの「検索」から「多段推論」への転換

2026年04月02日 16:06

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図表を含む社内文書を理解するAIを開発。軽量モデル無償公開で企業導入を加速  画像はリコーリリースより

今回のニュースのポイント

図表読解と多段推論(リーズニング)を実現:経産省・NEDOの「GENIAC」プロジェクトを通じ、複数ページにまたがる図表の関連付けや数値計算を行えるマルチモーダルLLMを開発。従来の「検索」では困難だった資料の論理的な理解を可能にします。

軽量モデルを無償公開し実用化を促進:開発成果である8B規模の軽量モデル「Qwen3 VL Ricoh 8B 20260227」を、本日からHugging Face上で無償公開。企業が自社環境(オンプレミス等)でセキュアに試用・導入できる環境を整え、ドキュメント活用の実用フェーズを後押しします。

「業務プロセスの一部」としてのAI活用:単なるテキスト要約に留まらず、思考プロセスの提示や根拠に基づく回答に注力。リコーのドキュメント管理ノウハウをAIに実装し、マニュアル検索や仕様チェックなどの業務自動化を狙います。

生成AIの活用における重点が「何でも答える汎用モデル」から「企業のドキュメントをどこまで正確に読めるか」に移りつつあるなか、リコーは“日本の社内文書に強いマルチモーダルLLM”というポジションを明確に打ち出しています。現在、生成AI市場ではChatGPTのような汎用LLMに加え、「自社のPDF・図表・マニュアルを正確に扱えるAI」へのニーズが急速に高まっています。リコーのリリースでも「テキスト検索では意図した結果が得られない」「検索機能のみでは文書の十分な活用が難しい」といった企業の課題が指摘されており、図や表組、画像を含む複雑な文書をどう扱うかがボトルネックになっていました。市場は今、単に情報を探し出す「検索」から、資料の文脈を読み解いて答えを出す「理解」のフェーズへと移行しつつあります。

 こうした中、リコーは「GENIAC」プロジェクトにおいて、図表を含むドキュメントを高精度に読解できるマルチモーダル大規模言語モデル(LMM)を開発しました。ベースには中国アリババクラウドの大規模マルチモーダルモデル「Qwen3 VL 32B Instruct」を採用し、リコー独自の強化学習やカリキュラム学習によって多段推論(リーズニング)性能を高めています。特筆すべきは、この技術を適用した8B規模の軽量モデルを本日からHugging Face上で無償公開した点です。リコー独自のベンチマークでは、図表読解において主要な商用モデルと比較しても高い水準のスコアを記録しており、実務利用に堪えうる性能が示されています。

 今回の動きの本質は、技術力だけでは超えられない「構造的課題」の突破にあります。従来の企業向けAIはテキスト要約には長けていても、図・表・脚注が混在する複雑な資料の解釈には弱いという弱点がありました。今回のモデルは、単なるデータ抽出に留まらず、抽出した数値の比較分析や、思考プロセスの日本語化による「根拠の提示」に注力しています。リコーは、企業内の暗黙知を活用するAIプラットフォーム「Hi.DEEN」や、AX(AIトランスフォーメーション)を支援する合弁会社構想も進めており、今回のモデルはこうしたソリューション群の中核技術として位置付けられます。

 生成AIの基盤モデル開発は米中の巨大IT企業が大きな存在感を持っていますが、日本企業が取るべき戦略は、特定の業務フローやドキュメント形式への「最適化」にあります。リコーもAI単体での勝負ではなく、自社の複合機やスキャナで培った画像処理技術、さらには業務ドキュメントの管理ノウハウと組み合わせたソリューション提供を軸に据えています。つまり、「どのモデルが最強か」というスペック競争ではなく、「現場の業務にどう組み込み、価値を出すか」という「使い方の競争」に勝機を見出しています。

 この技術は、会社員の日常業務に直結する変化をもたらします。例えば、膨大な製品マニュアルや設計書を横断してトラブルの原因と対処法を特定したり、契約書と要求仕様書の矛盾を自動チェックしたりといった、これまで人力で行っていた「突き合わせ・確認作業」の自動化が現実味を帯びてきます。現場目線では、資料を読み込む時間そのものを削減し、根拠に基づいた意思決定を迅速化することで、ミスを減らしつつ付加価値の高い業務に集中できる環境が整いつつあります。

 今後は、企業特化型のLMMとERPやCRMといった業務システムの連携、さらにはAI導入を支援するコンサルティングとのセット提供が主流になります。リコーの今回の成果は、AIが単なる「便利なツール」を脱し、企業の暗黙知を資産に変える「業務プロセスの一部」として機能するフェーズへの入り口と言えます。企業データ活用がどこまで進化するかを占う上で、今回の「日本語と図表に強い」モデルの普及が大きな試金石となるでしょう。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)