技術だけでは勝てない時代へ 経産省が示す産業競争の転換

2026年05月01日 07:10

EN-b_064

技術だけでは勝てないのか 経産省が示す競争の新ルール

今回のニュースのポイント

日本企業はなぜ「技術で勝っても市場で負ける」のか——。経済産業省は、技術で優位に立ちながらビジネスで後手に回る構造的な課題を指摘しました。競争軸は1990年代の製品規格から、現在はAIやデータ基盤等の「社会インフラ標準」へと移行しています。自らルールを作れなければ、他社への追随コスト増や価格競争を招き、企業価値を損なうリスクがあります。標準化を「成長投資」と捉え、経営層と投資家が共通言語で対話し、企業価値向上に繋げることが不可欠です。

本文

 経済産業省が公表した資料「企業価値を高める標準化・ルール形成」では、日本企業が「技術では優位に立ちながら、ビジネスモデルや市場支配では後手に回る」という構造的な課題があることが示されました。背景には、産業競争の軸が製品性能の優劣から、標準・ルール・プラットフォームといった「市場の設計」そのものへと移行しているという認識があります。

 同資料では、こうした「技術で勝ってビジネスで負ける」パターンが、1990年代から段階的に変化しつつ業界横断的に広がっていると整理しています。例えば、1990年代の「製品規格の時代」には、性能で勝っていたベータマックスに対し、録画時間や規格開放、流通網との連携で実質標準を握ったVHSが市場を支配したように、技術性能以上に「規格の広がり」が勝敗を分ける例が典型的と言えます。

2000年代以降の「プラットフォーム標準の時代」では、日本のガラケーが高機能・高品質を誇りながらも、OSやアプリストアというモバイルプラットフォーム標準を握ったiOS/Androidに主導権を奪われた事例が知られています。さらに2010年代には、日本の半導体産業が製造プロセスや装置などで一定の強みを持ちながらも、産業構造や設計プラットフォームといった「上位標準」を米国や台湾に押さえられ、全体の主導権を奪われる構図が顕在化しました。

そして2020年代の現在、計算性能やモデル性能で勝っても、APIやクラウド基盤といった「AI時代のインフラ標準」を握れなければ、再び競争力に影響する「社会インフラ標準の時代」に突入しているとされています。

 今回の資料は、競争の場が変わったことを示しています。これまでの日本企業は、高品質な製品や高度な製造技術を最大の強みとしてきました。しかし、デジタル化の進展により、競争はもはや「モノ単体」ではなく、それを動かすOS、サービス、データ連携基盤などの「仕組み(アーキテクチャ)」で行われるようになっています。優れた技術を持っていても、評価方法や接続条件、適合規格といった「ルール」を競合に握られてしまえば、ビジネスモデルで凌駕され、市場から排除されるリスクが生じる可能性があります。

 資料では、ルールを作れない場合に企業が直面する負の連鎖も示されています。他社のルールに追随するための追加コストが発生し、製品の差別化が困難になることで価格競争に巻き込まれます。その結果、利益率が低下して次の研究開発への投資余力を喪失するという「負けの構造」です。

 この変化を受け、企業戦略の転換が強く求められています。単に優れた製品を開発するだけでなく、国際標準化団体への参画やエコシステムの構築といった「ルール形成」を、コストではなく企業価値を高める「投資」として位置づける必要があります。また、投資家に対しても、どの標準やルール形成に関与し、いかに持続的な競争優位性を構築しているかを「価値創造ストーリー」として語ることが、長期的な株価・資本コストの改善には効果的であるとされています。

 今後は、日本企業がどの程度「ルールメイカー側」に回れるかが焦点となります。AIや半導体、データ基盤など、複数産業を貫くデジタルインフラが標準化の主戦場となるなか、自社技術をいかに市場の共通仕様に組み込み、主導権を確保できるかが重要です。競争は「何を作るか」から「どう市場を作るか」へと移っています。「どんなルールの上で自社の技術を動かすか」を設計する能力こそが、これからの産業競争力を左右することになるでしょう。 (編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)