地方財政計画と現実はなぜズレるのか 会計検査院報告が映す「国と地方のお金」の構造

2026年06月14日 21:23

国会議事堂14

地方財政計画や地方交付税など、国と地方の財政制度を象徴する国会議事堂。

今回のニュースのポイント

会計検査院は、国の予算編成と密接に連動する「地方財政計画」の事後検証に関する最新の報告書を公表しました。令和5年度の地方財政計画額が歳入・歳出とも92兆350億円であったのに対し、実際の普通会計決算は歳入116兆1,571億円、歳出111兆9,524億円となり、計画と決算の間に巨額のかい離が生じる状況が続いています。コロナ禍以降、国から地方への大規模な財政移転によって地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス)が黒字を維持し、自治体の貯金にあたる地方基金残高が約6兆円増加する一方、国は大幅な財政赤字と債務累増を継続しています。今回の報告からは「地方財政が苦しいか余裕があるか」という単純な二元論ではなく、数十兆円規模の計画と実態のズレをいかに客観的に検証し、次年度の制度設計へと反映させていくかという構造的な課題が浮かび上がります。

本文
 日本の財政運営において、国と地方の「財布」は切り離して考えることはできません。毎年、国の予算編成と並行して策定される「地方財政計画」は、一見すると全国の地方自治体による予算の見込みを表した単なる集計データのように捉えられがちです。しかし、その実態は、地方交付税や国庫支出金の規模を左右する国家財政上の重要な前提となっています。地方財政計画は、地方公共団体の歳入歳出総額の「標準的な水準」における見込額を算定するものであり、地方全体の財政バランスを示した上で、不足する財源に応じて国の一般会計から配分される「地方交付税」の総額や、特定の事業に国が支出する「国庫支出金」の規模をダイレクトに決定する仕組みを持っているためです。

 実際、令和6年度の地方財政計画を見ると、歳入・歳出の規模はともに93.6兆円に達しています。このうち、地方交付税や国庫支出金など、国から地方へ移転される財源は約38.3兆円と、全体の約4割を占めています。地方財政計画の算定過程で「財源不足」が生じた場合、その不足分は国の一般会計からの交付税の加算や、地方の臨時財政対策債の発行などによって手当てされます。つまり、地方財政計画の見積もりの精度は、国の一般会計負担の増減や、地方債の残高管理に直結する性格を有しているのです。地方財政計画は地方だけのお金の話ではなく、実質的に国家財政の一部として連動しているからこそ、会計検査院は毎年のように厳格な「事後検証」を行い、その動向を注視しています。

 ここで最大の論点となるのが、計画額と実際の決算額との間に生じている巨額の「ズレ」の本質です。令和5年度を例にとると、地方財政計画額の92.0兆円に対し、普通会計決算額は歳入116.2兆円、歳出112.0兆円と、決算規模が計画を大きく上回る構図が定着しています。過去の推移を振り返ると、平成22年度から令和元年度までは、計画に比べて決算が歳入で11兆〜15兆円、歳出で8兆〜12兆円程度上振れする傾向が続いていました。これが令和2年度のコロナ禍以降になると、巨額の補正予算等や国からの交付金措置により、歳入で30兆〜38兆円、歳出で26兆〜33兆円もの莫大な乖離へと跳ね上がりました。直近の令和5年度決算でも、総額としては依然として110兆円を超える高い水準を維持しています。

 ただし、会計検査院はこのズレの存在自体を「計画の誤り」として一面的に糾弾しているわけではありません。地方財政計画の性質上、超過課税による独自の地方税収入や、自治体が独自に取り崩す基金、年度内の貸付金などの経費は基本的に算定に含まれていません。また、当初予算ベースで策定されるため、年度途中に編成される国の補正予算や緊急の新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金(コロナ交付金)などは、計画額に最初から反映されない構造になっています。したがって、計画と決算にある程度のかい離が生じることは制度的に「予定されている」側面が大きいと言えます。総務省もこうした要因を考慮し、決算の繰越金や基金の増減、超過課税分などを補正した試算を行い、なお残る歳入0.3兆〜2.8兆円、歳出0.4兆〜2.1兆円の純粋な差額について、翌年度以降の制度設計を改善するための要因分析を毎年行っています。

 こうした構造のなかで、近年の地方財政の姿を大きく変容させた最大の要因がコロナ禍に伴う財政措置です。国は令和2年度から4年度までの3年間で、計18兆3,259億円ものコロナ交付金を予算措置し、令和2年度から5年度までに地方自治体へ実際に交付された額は計15兆579億円に上りました。この交付金は、使途の自由度が高く、事後的に自治体独自の一般財源と置き換える財源更正が可能という特異な性質を持っていました。会計検査院の調査によると、全381団体のうち8割を超える313団体でこの財源更正が実施され、その総額は9,169億円に達しています。このうち約1,025億円相当分が、最終的な剰余金としてそのまま財政調整基金などの基金へ積み立てられたと推計されています。

 こうした国からの大規模な財政移転の結果、地方公共団体の基金積立金現在高は、令和元年度末の約23兆円から令和5年度末には約29兆円へと、わずか数年で約6兆円も増加しました。国の基礎的財政収支(プライマリーバランス)が大幅な赤字を継続し、債務を累増させているのとは対照的に、地方の基礎的財政収支は黒字を維持するという、国と地方の二面性とも言えるねじれ構造が生じています。

 しかし、これを捉えて「自治体がお金をため込んでいる」と単純に批判することは実態を見誤ります。本来であれば地方の一般財源を取り崩して実施する予定だった投資的経費や継続事業に、国から配分されたコロナ交付金が充当された結果、浮いた一般財源が原資となって基金に回ったという構造だからです。むしろ会計検査院は、これらの積み上がった基金が今後取り崩されて実際の事業支出に充てられた際、その年度の決算歳出が膨らむことで、当初の地方財政計画と決算との乖離をさらに拡大させる要因になり得るという、将来的な財政運営のリスクを厳しく指摘しています。

 さらに、近年の地方財政を取り巻く環境変化の象徴として、ふるさと納税による影響も見過ごせなくなっています。令和6年度のふるさと納税による全国の受入額は1兆2,727億円に達する一方、居住地での住民税等の控除額は7,688億円となっており、差し引き約5,038億円の差額が地方全体の歳入を押し上げています。ただし、地方財政計画の算定上は、ふるさと納税の見込み額の一部のみを雑収入として算入し、住民税の減収分は全額をマイナス算定しているため、計画と決算の双方で影響の見え方が異なる構造が生じています。会計検査院は、募集コストなどを差し引いたネットの効果が地方公共団体全体としてマイナスに作用している実態を踏まえ、ふるさと納税が地方財政計画と決算の乖離に与える影響についても、より精緻な検証を進めるよう求めています。

 こうした多角的な検証を踏まえ、会計検査院が最終的に総務省に対して求めているのは、地方財政計画における透明性の向上と説明責任の徹底です。地方財政計画で算定される財源不足額の規模は、国の一般会計負担、ひいては国民の税負担に直結しているため、その算定プロセスの信頼性を確保することは極めて重要な意味を持ちます。報告書では、計画額と決算額の差を引き続き丁寧に把握するとともに、超過課税や基金の取り崩しなど「今後の決算に影響を及ぼし得る要素」についても、その影響度を国民に分かりやすく情報公開していくことを強く促しています。

 この報告書は、「地方財政には十分な余裕がある」とか「財源不足の懸念は誇張である」といった極端な結論を下すものではありません。地方財政計画は毎年90兆円を超える巨額の規模で策定され、その前提は地方交付税や国の一般会計負担に直結しています。だからこそ重要なのは、計画額と決算額の差を単に「あるか・ないか」だけで論じることではなく、その乖離要因を継続的に検証し、制度へ反映していく透明性と説明責任の確立です。国と地方を合わせたマクロな財政運営の持続可能性が問われる時代だからこそ、「どれだけ支出したか」という結果の議論だけでなく、「どのような前提で計画を立て、その結果がどうだったのか」という事後検証の視点は、今後の財政健全化に向けた議論において、ますます重要になっていくと言えそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)