洋上風力は価格だけでは選ばれない 政府が見直す「入札評価」の中身

2026年06月07日 16:59

画・洋上風力発電、1計画で原発1基分。法整備により2030年には9200億円市場に成長と予測。

洋上風力発電は日本の脱炭素政策を支える重要な電源として期待されている。政府は入札制度の見直しを通じ、価格だけでなく事業実現性や継続性を重視する姿勢を強めている。(写真:イメージ)

今回のニュースのポイント

経済産業省の資源エネルギー庁と国土交通省の港湾局は、「一般海域における占用公募制度の運用指針」の改訂を行いました。これは我が国の脱炭素政策の柱となる洋上風力発電事業において、国が最も適切な事業者を選定するための重要なルールブックです。今回の改訂では、これまでの低価格競争に偏りがちだった入札評価を改め、価格の安さと最後までプロジェクトをやり遂げる「事業実現性」のバランスを同等に評価する方針が改めて明確に打ち出されました。背景には、世界的なコスト上昇やインフレによって揺れる洋上風力市場の現実に対応し、電源投資を確実に完遂させるという政府の強い狙いがあります。

本文
 洋上風力発電事業は、領海や内水という公共の海域を長期間にわたって利用する性質上、政府が事業者を公募し、最も適切と判断した事業者へ最大30年間に及ぶ占用許可を与える仕組みを採用しています。そのため、今回改訂された運用指針は、「日本の再生可能エネルギーの主力電源となる洋上風力事業を誰に任せるのか」を決める、極めて重要な国家ルールそのものです。

 しかし、近年の洋上風力業界を取り巻く世界的なマクロ環境は激変しています。鋼材価格の高騰や建設費の増加、金利の上昇やサプライチェーンの混乱、さらには為替の変動が同時進行しており、欧米では安値で落札されたものの採算が悪化し、開発が中断・遅延するケースが相次いで表面化しています。こうした市場環境の地殻変動を受け、日本政府も単なる導入拡大から「確実な事業完遂」へと政策の足元を固める必要に迫られました。

 今回の改訂で改めて明確化されたのが、「供給価格の評価」と「事業実現性に関する要素の評価」を当面1:1(各120点・計240点満点)で総合評価する考え方です。政府は価格競争を軽視したわけではなく、国民負担の抑制という必須要件をしっかりと維持した上で、大規模かつ長期にわたる電源投資を確実に完遂できるだけの強靭な事業計画を求めています。特に120点が配分される事業実現性評価の内訳を見ると、資機材調達や迅速な工事計画を含む「事業の実施能力」に80点、地元や漁業関係者との協調・共生といった「地域との調整、地域経済等への波及効果」に40点という、実務的な重み付けがなされています。政府は指針の中で、「強靱な発電事業を組成し、大規模かつ長期間にわたる電源投資を確実に完遂できるか」という観点を重視する姿勢を明確にしています。

 さらに、今回の中身で注目すべきは、事業者が提出する資金・収支計画の審査が一段と厳格化された点です。具体的には、直近の経済動向を踏まえ、風況変動や工期だけでなく「インフレや為替、金利等に関する感度分析シナリオ」をキャッシュフロー計算書に含めた、収支計画の提出が求められるようになっています。これにより、突発的なコスト高騰が起きても財務が破綻しないかどうかが厳しく見極められます。また、万が一事業者が経営破綻した場合や30年の占用期間が満了した際を想定し、第三者による保証によって解体・撤去費用を確実に担保する方策を求めるなど、事業の最初から最後までを追いかける堅牢な安全装置が組み込まれています。

 このバランス重視への入札基準の転換は、日本企業、とりわけ巨額の資金力や長期の運営ノウハウ、確固たる地域調整力を持つ総合商社や電力会社、重電メーカー、海運会社などの連合体(コンソーシアム)にとって、その総合力を正当に評価される追い風となる可能性があります。洋上風力は数千億円規模の投資であり、資材の安定調達や国内でのサプライチェーン形成、故障時の早期復旧を含め数十年単位の保守管理(O&M)を維持できる体制がなければ成り立たないためです。

 日本政府は洋上風力を再生可能エネルギー拡大の切り札と位置付けていますが、ただ導入の目標数値を掲げるだけのフェーズは終わりました。今回の占用公募制度の運用指針改訂は、日本の再エネ政策が「安さの追求」だけでなく、「確実に建設され、安定的に長期間電力を供給し続けるという事業の継続力」を同等に評価する、成熟した次の段階へ進み始めたことを明確に示しています。政府がこれからの入札で厳しく問いかけるのは、単に最も安い価格を提示した事業者ではなく、「激変する経済環境を生き抜き、最も高い確度で事業を完遂できる事業者」であると言えそうです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)