今回のニュースのポイント
レクサスは2026年5月7日午前10時30分、新型BEV(バッテリーEV)「TZ」をオンラインで世界初公開しました。ブランド初のBEV専用3列シートSUVで、既存の「RZ」より上位に位置するラージSUVです。快適性を重視した空間設計をコンセプトに掲げ、EV競争が「移動体験の価値」へと移る現状を象徴する1台となっています。
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日本の自動車産業はいま、EV化とソフトウェア化という大きな転換点を迎えています。レクサスは2026年5月7日午前10時30分、ブランド初となるBEV(バッテリーEV)専用3列シートSUVモデル、新型「TZ」をオンラインにて世界初公開しました。日本での発売は2026年冬頃を予定しています。この新型TZは、既存の「RZ」よりも上位に位置するラージSUVであり、レクサスがEV競争の主戦場を「走行性能」から「移動空間の体験価値」へと明確にシフトさせたことを象徴するモデルとなっています。
新型TZが掲げるコンセプトは、すべての乗員が笑顔になれる上質な移動空間を目指した「Driving Lounge(ドライビング・ラウンジ)」です。プレスリリースでは、「どの席でもくつろげる居心地の良さ」や「時間を大切にするお客様への新たな体験価値」といった言葉が並び、快適性を重視した空間設計であることが強調されています。具体的な仕掛けとして、新開発のプラットフォームによる広々とした室内空間に加え、大開口の可動式パノラマルーフ、光・音・香りが連動して感性を刺激する「センサリーコンシェルジュ」、そして後席の快適性を重視した専用の走行モードなどを備えています。かつての高級車が競った「運転する楽しさ」に加え、3列目を含めた「滞在する空間」としての質を重視しているのが特徴です。
こうした空間体験への傾倒の背景には、EV市場における価値競争の変化があります。これまでのEV競争は、航続距離、電池性能、加速性能といった「スペック」が前面に出ていました。しかし、高級EV市場では現在、ソフトウェアによるデジタル体験やコネクテッド機能による利便性、すなわち「車内での過ごし方」が最大の差別化要因になりつつあります。特に海外のEVメーカー各社は、巨大なディスプレイやAI音声アシスタント、エンターテインメント機能を強みに急成長しており、高級車市場のルールそのものを変えようとしています。TZが「過ごす時間」を前面に打ち出したのは、こうした世界的な「車内体験競争」の土俵において、レクサスとしての回答を示した結果と言えるでしょう。
トヨタ・レクサス連合の変化も見逃せません。これまでハイブリッド車(HEV)を軸にEVには慎重と見られがちだった同グループですが、現在はBEV専用プラットフォームの導入やソフトウェア定義車(SDV)への転換を加速させています。TZは、レクサスのBEVラインアップを牽引する象徴として、日常のルーティンから人々を解放する「DISCOVER LIMITLESS」というテーマを与えられています。また、四国の竹材を用いた「Forged bamboo」やリサイクルアルミの採用など、サステナビリティと伝統技術の継承を両立させている点も、現代のプレミアムEVに求められる満足感を意識した戦略です。
一方で、レクサスは「運転の楽しさ」を完全に手放したわけではありません。新型TZには、EVでありながら擬似的なシフト感覚を操る「インタラクティブマニュアルドライブ」が採用されています。これは、エンジンサウンドの演出や変速時のショックの再現により、ドライバーにクルマとの対話感覚、すなわち「運転の高揚感」を擬似的に提供する技術です。EV化によって失われがちな「機械を操る手応え」を、デジタル技術で補完しようとする試みは、レクサスらしいこだわりと言えます。
本質的に、新型TZが示しているのは「EV化」そのものではなく、「移動時間をどう商品化するか」という競争です。クルマはもはや単なる移動手段ではなく、自宅やオフィスに次ぐ「過ごす場所」としての価値が問われています。高級EV市場における勝負は、「どれだけ速く走るか」という物理的な性能比較から、「どれだけ豊かでパーソナライズされた時間を過ごせるか」というソフトウェアとブランド体験の融合へと移り変わっています。
日本の基幹産業である自動車製造が、ハードウェアから体験へと価値の軸を移すなか、レクサスTZは「移動の質」という新しい土俵で、日本勢が世界とどう渡り合うのかを示す試金石となるはずです。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)













