日本の海に適した洋上風力へ 浮遊軸型風車が挑む再エネ国産化の壁

2026年07月09日 16:11

今回のニュースのポイント

電源開発や東京電力ホールディングス、中部電力など6社によるコンソーシアムは、次世代浮体式風車「浮遊軸型風車(FAWT)」の小型実験機を長崎県壱岐市沖に設置し、海上実証を開始したと発表しました。日本は遠浅の海域が少なく、従来型の海底固定式洋上風力の導入拡大には地理的な課題があります。低重心化や浮体構造そのものを回転させる革新的なアプローチにより大幅なコスト低減を目指すFAWTは、日本の海洋環境に適した国産の再生可能エネルギー技術として期待されています。

本文
 脱炭素社会の実現に向けた再生可能エネルギーの主力電源化が急務となるなか、日本の地理的条件や海洋環境に適した新しい洋上風力発電技術の開発が進んでいます。電源開発、東京電力ホールディングス、中部電力、川崎汽船、住友重機械工業、アルバトロス・テクノロジーの計6社で構成される「FAWTコンソーシアム」は、2026年7月8日、次世代浮体式風車である「浮遊軸型風車(Floating Axis Wind Turbine:FAWT)」の小型実験機を長崎県壱岐市内の実証海域に設置し、海上での実証実験を開始したと発表しました。実証期間は2026年7月2日から約1年間を予定しており、単に欧州から大型の風車技術をそのまま輸入して設置するのではない、日本の海に合わせた独自の次世代インフラづくりが本格化しています。

 洋上風力発電で先行する欧州などの地域では、海岸周辺に広大な遠浅の海域が多く存在するため、海底に直接土台を固定する「着床(固定)式」の導入が比較的容易でした。しかし日本においては、海岸近くから一気に水深が深くなる場所が多く、固定式を設置できる好適地が非常に限られているという地理的・地形的なボトルネックがあります。そのため、日本の海で洋上風力を普及させるには、深海域にも適用可能な「海に浮かべる風力発電(浮体式)」の確立が不可欠とされてきました。

 しかし、従来の浮体式洋上風力発電にも高いコストという大きな壁が存在していました。現在主流となっている水平軸型(一般的なプロペラ型)の風車をそのまま海に浮かべようとすると、風車全体の巨大化に伴って上部の重量が増加し、それを支えるための基礎(浮体)や海底に繋ぎ止める係留設備も比例して大型化せざるを得ません。結果として、製造から建設、設置にかかるコストが高騰し、商用化への普及を阻む要因となっていました。そのため、今後の再エネ拡大には、発電性能の追求だけでなく、いかに設備を「安く製造し、安全に設置できるか」という経済性の担保が重要なテーマとなります。

 今回の海上実証で用いられるFAWTは、そうした「風車の巨大化と浮体の大型化」という従来の開発競争とは一線を画す、抜本的な発想の転換から生まれた技術です。最大の特徴は、従来の風車のように固定された支柱上で羽根だけを回すのではなく、浮体構造そのものを活用した新しい設計思想にあります。このシステムでは風車部と円筒浮体が一体となり、海の上で「浮体ごと回転する浮遊軸構造」を採用しています。風車の重量と風による転倒モーメントを、適度な傾斜を許容しながら回転する浮体全体で支持するため、本来不可欠だった巨大な軸受が不要となり、浮体自体のさらなる小型化を可能にしています。さらに、風車や発電機をモジュールごとに分割して製造できるため量産効果を高められるほか、設置にあたっても洋上での大型クレーン船を使用しない工法を可能にすることで、工期の短縮や基地港湾の省スペース化を実現し、大幅なコスト削減と国産化の進展を狙っています。

 ただし、この次世代技術が商用化として社会に実装されるまでには、まだ越えるべき距離が残されているのも事実です。今回長崎県沖の湾内に設置された小型実験機は、ロータ直径が約9.3m、最大出力は20kWという規模に留まります。将来の商用風力発電所として実用化を果たすにはメガワット(MW)級の大型化が必要であり、現在は「即座に電力を供給する商業施設」を作る段階ではなく、まずは海洋の実環境下での「技術成立性を確認する」基礎的なステップにあります。1年間の実証期間を通じて各部材の状態を調査・分析し、耐久性の実証、大型化に向けた設計の高度化、保守・管理コストの低減といった実務上の課題を一つずつ検証していく必要があります。

 こうした電源確保のための新技術開発は、足元で進む最先端テクノロジーの社会実装の動向とも深く結びついています。OpenAIによるAIの高度化やNVIDIAが進めるエージェント稼働インフラの整備、さらにはAnthropicが提示するようなAI活用領域の拡大などによる情報処理量の増加を背景に、データセンターを物理的に支える三菱重工業などの省エネ技術が注目されるなか、その「最上流」に位置するクリーンな電力をどのように国内で安定確保するかは、国家の産業競争力にも関わる重要課題となっています。半導体やAIモデルの性能を競うのと同様に、それを稼働させる莫大な電気をどのような仕組みで、どれほど低コストで生み出せるかという電源技術の有無が、次世代の経済活動を支える隠れた競争軸となっています。

 浮遊軸型風車(FAWT)によるアプローチは、すぐに日本の電力供給の構造をドラスティックに変えるような即効薬ではありません。しかし、海外の成功モデルに依存せず、日本特有の深くて厳しい海洋環境を前提とした発電インフラを、国内の技術を結集して育てようとする取り組みは、産業構造の自給率向上において重要なマクロ的意義を内包しています。単に規模の大きさを競うのではない。自国の環境に合わせて仕組みそのものを最適化していく。FAWTの海上実証は、日本型洋上風力発電の持続可能な未来と、再エネ国産化の壁を打ち破る可能性を探るうえで、重要な一歩となっています。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)