政府は民間投資をどう動かすのか 日本は「産業投資」1.17兆円要求、税制・融資・公共調達へ広がる産業政策

2026年09月26日 21:56

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首相官邸。政府による産業支援は補助金だけでなく、政策金融、税制、公共調達など多様化している。日本、米国、オーストラリアの事例から、政府の制度が民間投資へ資金や需要をつなぐ仕組みを比較する。(画像は資料写真)

今回のニュースのポイント

政府による産業支援というと、企業への「補助金」が想起されやすい側面があります。しかし、今週公表・確認された国内外の政策を横断すると、政府が民間投資を動かす手法はそれだけではありません。日本では2027年度の財政投融資計画要求で、総額が19兆400億円と前年度当初計画比0.1%増にとどまる一方、企業の成長や戦略分野への資金供給に使われる産業投資は5003億円から1兆1700億円へ大幅に増え、配分拡大が目立っています。財務省も9月18日の財政投融資分科会で、2027年度要求と日米戦略的投資イニシアティブを議題としています。一方、米国では製造業向け税額控除が民間融資の原資として活用され、豪州では120億豪ドル規模の鉄道車両調達に50%の現地調達目標を組み込み、国内製造能力と雇用を形成しようとしています。政府が出資、融資、税額控除、信用供与、公共調達、現地調達目標を組み合わせて民間投資を誘導する構造を、今週の具体例から読み解きます。

■日本の財投、総額横ばいでも「産業投資」は2.3倍

 財務省が示した2027年度財政投融資(財投)計画の要求額は総額19兆400億円となりました。2026年度当初計画の19兆180億円に対して0.1%増であり、総額の数字だけを見ればほぼ横ばいの推移です。

 しかし、その内訳を見ると、公的機関へ融資を行う財政融資が前年度当初計画比2.5%減、政府保証が5.6%減となる一方、企業の成長や戦略分野への資金供給に使われる「産業投資」は、5003億円から1兆1700億円へ膨らみました。増額幅は6697億円、増加率は133.9%増(約2.34倍)に達し、2027年度要求では産業投資への配分拡大が目立っています。

 注意が必要なのは、財投全体の要求額がほぼ横ばいとなる一方、その内訳では産業投資の要求額が大幅に増えている点です。今回の数値はあくまで各省庁からの「要求額」であり、年末の予算編成を経て確定する計画額ではありません。

■JBIC、政投銀、JOGMEC、IPAへ――政府資金の「出口」

 1兆1700億円の産業投資要求が向かう先として、主要機関別に以下の金額が掲げられています。

・国際協力銀行(JBIC):1650億円 → 3880億円

・日本政策投資銀行(DBJ):650億円 → 2000億円

・エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC):1044億円 → 1727億円

・情報処理推進機構(IPA):新規1500億円

 ここで押さえるべきは、予算を直接給付する一般的な補助金との違いです。財政投融資は、政策的な必要性がありながらも民間だけでは対応が難しい長期・大規模案件などに対し、出資や融資を通じて公的資金を供給する仕組みです。政府の産業政策には、国庫から資金を「支出する」だけでなく、公的金融を通じて「民間資金の呼び水として資金を流す」という選択肢が存在します。

■造船では9000億円の官民投資、政府支援は最大3110億円

 日本国内において、こうした公的支援と民間投資の組み合わせがすでに具体化している例として造船業が挙げられます。国土交通省が9月4日と11日に経済安全保障推進法に基づき認定した「船体の供給確保計画」は計8件に上ります。

 政府が9000億円の全額を支援するのではなく、最大約3110億円の政府支援と民間投資を組み合わせ、8件合計で9000億円規模の官民投資となる計画です。支援対象は省力化・自動化設備の整備、ドック拡張、大型クレーン導入など多岐にわたります。政府は造船を日本成長戦略の重点分野に位置付けており、10年間で官民合わせて1兆円規模の投資を目指しています。

■米国では「将来の税額控除」が現在の融資に変わる

 海外へ目を向けると、より多様な手法で民間資金を引き出す構造が見られます。

 米国の長時間蓄電池メーカーであるForm Energy(フォーム・エナジー)が確保した2億7000万ドルの信用枠(credit facility)には、対象部品の生産によってSection 45Xに基づき生じる税額控除に対して資金を前払いする「tax credit advance facility」が含まれています。さらに本ファシリティには、全体の信用供与額を最大10億ドルまで拡張できる機能(accordion feature)も設定されています。

 米国政府が企業へ2億7000万ドルを直接融資したわけではありません。税額控除という公的制度が、民間金融機関による資金供給と接続されています。Form Energyによると、調達資金は製造能力の拡大と運転資金需要に充てられます。

■豪州では「政府が何を買うか」が産業政策になる

 オーストラリアでは、公共調達を通じた産業形成の手法が採られています。

 ニューサウスウェールズ(NSW)州政府が進める120億豪ドル規模の「Future Fleet Program」では、Hunter地域に州所有の新たな鉄道車両製造施設を整備し、約30年間にわたって車両を国内生産する計画が進められています。重要なのは、金額の大きさだけではありません。車両調達では、最低50%の現地調達目標を設定しています。

 長期の製造パイプラインと現地調達目標を設定し、建設段階で最大780人、工場操業とサプライチェーンで約550人の雇用を維持・支援する設計です。州政府自身が鉄道車両を購入する「バイヤー(買い手)」としての立場を活かし、調達条件を工夫することで国内製造能力と雇用へ需要を誘導しようとしています。なお、現在は事業者からの関心表明(EOI)募集段階であり、正式な発注・選定が完了した段階ではありません。

■政府の役割は「支出額」だけでは測れない

 日本、米国、オーストラリアの事例を並べると、それぞれの制度設計の違いが浮かび上がります。

・日本:財政投融資(出資・融資)や基金による官民共同投資

・米国:生産税額控除(45X)と民間信用枠の接続

・豪州:大規模公共調達への50%現地調達目標の組み込み

 各国の事情や対象産業が異なるため、単純な優劣を比較することはできません。しかし共通しているのは、政府がすべての資金を直接給付するのではなく、自らの制度設計によって民間のお金、設備、雇用を動かそうとしている点です。

■「いくら使うか」から「どう動かすか」へ

 産業政策を評価する際、「政府が○兆円を投入」という金額の大きさだけで論じると、政策の構造を見誤る可能性があります。同じ1000億円であっても、それが給付(補助金)なのか、出資なのか、融資・保証なのか、税額控除なのか、あるいは公共調達なのかによって、民間企業に届く経路も、政府と民間が負担する資金やリスクの性質も異なります。

 日本における2027年度の財投要求でも、総額そのものは前年比0.1%増とほぼ横ばいでありながら、産業投資要求は2.3倍超へ拡大しました。政府がどの資金供給手段を選択し、民間投資とどのような仕組みで接続させようとしているのかを読み解く必要があります。

 今週公表された国内外の政策を横断すると、政府が直接資金を支出するだけでなく、政策金融や税制、公共調達などを通じて民間の投資や生産活動に資金・需要を接続しようとする構造が見えてきます。(編集担当:エコノミックニュース編集部/Editorial Desk: Economic News Japan)