タイやフィリピン、インド、スリランカ、バングラディッシュ、インドネシアなどなど、アジア旅行をしたことのある人は、街中を走る3輪カーを見かけたことがあるだろう。安価で積載量が大きいので、アジア圏では主に、商業用のタクシーとして活用されている。
日本でのオート3輪の需要は、隆盛を極めた1950年代以降、徐々に減退していき、最後まで残った大手2社のダイハツが72年に、東洋工業も74年に、それぞれ撤退したことで、オート三輪市場は事実上、消滅した。
しかし、他のアジア諸国においては、衰退するどころか需要は拡大する一方。普通乗用車よりも小回りが利き、過積載にも強く、駐車スペースも省スペースで済む3輪の車体は、何かと都合がいいらしい。ところが近年、いくつかの問題が持ち上がっていた。それは、排気ガスによる大気汚染や燃料コストの問題である。環境面から考えると、3輪カーは時代に逆行する問題の塊の様な存在なのだ。
そこで今、最も注目されているのが、内燃機関をモーターに置き換えた電動(EV)3輪タクシーなのだ。現在、3輪タクシーが走っているアジア各国は環境対策の一環として、3輪タクシーの電動化を国家プロジェクトとして取り組み始めており、その市場は急速に拡大するとみられている。
例えば、フィリピンではすでに3輪タクシーの電動化プロジェクトが進行している。フィリピン政府は、環境対策の一環として今後3年間で10万台の3輪タクシーを電動化する目標を掲げており、これに呼応するかたちで、電動バイクや電動シニアカーなどを手掛ける電動バイクベンチャーの「テラモーターズ」などがEV3輪を新たに開発し、プロトタイプを公開している。
テラモーターズは、電動バイク「SEEDシリーズ」や「BIZMOシリーズ」などで知られるベンチャー企業だ。今回開発したEV3輪タクシーは、フィリピン国内だけでなく、同様の問題を抱えつつも拡大するアジア市場で、需要の取り込みを目指す。今回、公開されたEV3輪タクシーのプロトタイプは、運転席に1人、後部座席に大人5人の計6人が乗車できる。モーターの出力は7kWで、後部座席の床下には、容量2.88kWhのリチウムイオン電池パックが搭載されている。充電は家庭用の電源で行なえ、満充電までの充電時間は約2時間。満充電状態からの走行距離は50kmとなっている。
走行距離は少し短めのようにも思えるが、家庭用電源で充電可能ならば、そう深刻に心配することもないだろう。驚くべきは、運用時に必要な電力費用だ。ガソリンエンジンの費用と比べて、燃料コストが約3分の1で済むという。言うまでもなく、3輪タクシー会社や運転手にとって、エコよりもむしろ大幅なコストダウンの方が魅力的であり、車両を買い換えたとしても充分に回収出来るであろうことから、急速にEV化が進むとみられる。
これが実用化されたら、日本のタクシー業界にも導入することはできないのだろうか。都市部なら、小回りも利いてエコな3輪タクシーは活躍の場は大いにあるだろう。燃料コストも低いのであれば、料金も安く設定すれば、需要は見込めると思うのだが。(編集担当:藤原伊織)