竹島を巡る領土問題や、尖閣に対する中国の不法行為など、主権・外交といった話題に注目が集まる一方で、陸上自衛隊の次期多用途ヘリコプター「UH-X」を巡る川崎重工 との不正納入事件や、航空自衛隊の新型偵察機開発事業を巡る東芝 との訴訟合戦が報じられるなど、防衛省、強いては日本の軍事・防衛産業が大きく揺れている。今年1月以降、防衛省の制度調査を契機として、三菱電機 や住友重機械 等による過大請求事案が明らかになったことから始まり、今年は例年にも増して、日本の防衛産業にスポットが当たった年といえるであろう。
川崎重工や東芝・住友重機械の他、かつて情報漏えい問題で話題となった富士通 や、事務次官経験者が逮捕された贈収賄事件で有名となった山田洋行など、防衛省関連で話題に上る企業は、業種や企業規模から、防衛産業も実施していることにどこか納得の行く企業ばかりである。最先端であることが求められる防衛というものに対し、十分な開発資金力や経験、技術などは必須であり、名の挙がった企業は、それを有していると一般に認識されているからであろう。しかし一方で、不正などがなく話題に上らない企業の中に、一般に認識されている企業イメージからは想像し難い企業が、意外と大きな金額のやり取りを防衛省と実施している。
たとえば、ダイキン工業 の一般的なイメージといえば、エアコンを中心とする「総合空調メーカー」というものではないだろうか。ところが、防衛省「平成23年度装備施設本部調達実績概況」によると、「00式120mm戦車砲用演習弾」「00式105mm戦車砲用演習弾」「81mmM、JM41A1りゅう弾 」「10式120mm装弾筒付翼安定徹甲弾」などを納入しており、その規模は計158億円となっている。また、「建設機械大手」というイメージが大きい小松製作所 も、「120mmTKGJM12A1対戦車りゅう弾」「120mmMJM1りゅう弾信管なし」「155mmHM107りゅう弾」「軽装甲機動車」「91式105mm多目的対戦車りゅう弾」などを納品している。その他、繊維や樹脂・化学品を扱うクラレ が戦闘服を、製鋼や産機を中心とする日本製鋼所 が火砲やミサイル発射装置を扱ってるなどは、企業イメージからかけ離れているわけではないが、意外な印象を受ける人も少なくないのではないだろうか。
日本の防衛産業は、海外輸出が不可能なため、顧客がほぼ防衛省に限られる。そのため、事業拡大の余地に乏しく、容易に参入しうる業界ではない。また、今回の東芝の訴訟合戦から察するに、開発に失敗した場合の開発費用などは防衛省は負担しない方向のようであるから、企業にとって既製品を納入する以外にはリスクの大きすぎる産業といえる。しかし、こうした環境下でも、あまり一般に知られることなく、国防に携わっている企業がある。イメージが悪化するとでも思っているのか、あまり広報されていないが、隠すべきことではない。そういった企業には、自国の防衛に関わっていることに、もう少し誇りを持って欲しいと願う。(編集担当:井畑学)