2013年3月、スズキは軽自動車のボリュームゾーンに向けて、人気車種パレットを引き継いだリアスライドドアを採用した超ハイト系ワゴン「スペーシア」を発売した。このセグメントには強力なライバル、ホンダN BOX、ダイハツ・タントが存在し、各社が覇権を競っているセグメントである。
そのスズキ・スペーシアの2013年4月から9月までの半期累計販売台数は、全軽自動車5位の6万4003台(全軽自協調べ)。最大のライバルであるナンバーワン軽のN BOXの11万台強に大きく水を空けられた恰好となった。また、デビュー後7年経ったモデル末期のダイハツ・タントに6位(6万台強)にまで追い上げられている。
スペーシアの特徴は、クラストップの室内長の大きな室内空間、スズキが長年軽自動車ワゴン生産で培った乗り降りしやすいパッケージング。運転のしやすさと乗る人にやさしい機能や装備。また、燃費や走行性能に大きく貢献する軽量化(マイナス90kg)に取り組み、スズキの次世代環境技術「スズキグリーンテクノロジー」の採用により、デビュー時にハイト系ワゴンでナンバーワンのJC08モード燃費29.0km/リッターを達成。軽快な走りを実現しながら全車をエコカー減税の免税対象車としたことにある。
しかしながら、前々年デビューのN BOXに販売で追いつけないばかりか、モデル末期にタントにまで詰め寄られた。その理由として指摘されたのは、安全装備の欠落だった。運転席&助手席エアバッグやABSなどは標準だが、N BOXが全車標準としているESC(エレクトロニック・スタビリティ・コントロール:横滑り防止装置)が装備されず、オプションでも装着出来ないモデルだった。この指摘に慌てたスズキは、新車発表からわずか半年後の9月にメーカーオプションとしてESP(エレクトロニック・スタビリティ・プログラム)を設定した。
スズキの好燃費技術は同社開発陣の地道な基礎技術の積み上げで達成されたはず。だが、クルマを商品企画する際の総合的マーケティング戦略で、安全装置を外してしまった。ここに間違いがあったとしか思えない失策にみえる。
ESCは軽自動車でも2014年10月以降に型式指定を受ける新型車に装着が義務づけられる。継続生産車は2018年2月まで装着が免除となる。
スズキは2013年第43回東京モーターショーで「ガソリン車燃費ナンバーワン」35.0km/リッターを達成したアルト・エコを大々的にアピールしていた。細かな省燃費技術を積み上げた技術陣の努力の成果である。が、しかし、ここでもスペーシアと同じマーケティング手法が採られた。(編集担当:吉田恒)