今月21日、福井県にある関西電力大飯原発3、4号機について「安全性が確保されていない」と周辺住民らが関電を相手に再稼働差し止めを求めた裁判で福井地裁はこの訴えを認め「運転差し止め」を命じた。関電は翌22日、すぐに控訴し、再稼働を目指す姿勢を鮮明にした。
判決は「大飯原発から250km圏内に居住する者が原発運転によって直接的にその人格権が侵害される具体的な危険がある」と認める画期的なものだった。「大飯原発は地震の際の冷却機能や放射性物質の閉じ込め構造に欠陥がある」とも指摘した。しかし、判決を評価・支持する多くの国民の声に耳を傾けたとは思えない素早さで控訴手続きが行われた。
関電の八木誠社長は大手電力10社で構成する電気事業連合会のトップに関電から初就任の立場。いわば1日も早い原発再稼働を目指す電力業界のトップ席に就いている。
こうした背景に加え、財務基盤強化を図らねばならない企業体として、関電は福井県の高浜原発3、4号機の再稼働も急いでいる。高浜3、4号機は基準地震動(想定される最大の揺れ、耐震対策の前提)について今月16日に決着し、津波対策でも津波の高さを5.5mから5.7mに見直し、防潮ゲートの高さをすべて6.5mにすることで原子力規制委員会の安全審査会合で30日、了承された。6.5mの防潮ゲートの完成を目指す。
関電大飯原発を巡る地裁判決で原発再稼働の全体の動きにブレーキがかかるのではないかとの見方も出る中、安全性より生産コストの低減重視ともみられる経済・財界とともに立ち位置を同じくした安倍政権。
これを支援するようにエネルギー問題で「安全が確認された原発の再稼働プロセスを加速すべき」と繰り返してきた日本経団連が28日、改めて緊急提言を発表した。「原発再稼働」の共通目標に「もたれ合い」で世論づくりが続いている。
経団連は「震災後、電気料金・エネルギーコストの高騰や供給不安が企業規模を問わず、新たな投資や雇用の拡大を阻害している」とし「化石燃料輸入額は震災前に比して10兆円増加し、GDP比で5.7%とオイルショック時に匹敵する水準となっている。このままでは持続的な経済成長の実現が困難になることを我々は強く憂慮している」と訴える。
また「原子力規制委員会は人員体制のさらなる強化はもとより、審査の効率性・予見可能性の向上、処理期間の明確化を図り、安全性確保を大前提に、審査プロセスを最大限加速すべきである。政府は立地地域が求める防災対策等に万全を期すとともに、再稼働の必要性を明確に説明すべきである」とアピールした。
そして、安倍総理は原発再稼働推進への人員体制の強化(?)へ、原子力規制委員会の委員に原発推進派で原子力学会の会長経験者の田中知・東大大学院教授と石渡明・東北大教授をあてる人事案を30日に国会に提示した。
地震や津波に対し厳しい審査姿勢を貫いてきた島崎邦彦委員長代理を9月の任期満了で外すという。強硬な人事としか思えない。
原子力規制委員会の中立性・公平性・独立性、さらに国民の原子力規制委員会に対する信頼性を危ぶむ状況をつくってでも、安倍政権は原発再稼働推進を電力業界、経団連とともに進めようとしているのか。田中氏が少なくとも原子力規制委員会委員に相応しい経歴の持ち主なのか、時の政府の政策とは離れた、規制委員会の独立性確保のため、国会での徹底した議論を行うことが求められている。(編集担当:森高龍二)