「美味しんぼ」が語りたかった「福島の真実」とは

2014年05月25日 15:29

 漫画「美味しんぼ」(小学館発行・週刊ビッグコミックスピリッツ連載)の、東電福島第一原発を訪れた主人公たちが取材後に鼻血を出す場面や、作中で実在の福島県双葉町前町長・井戸川克隆氏が「福島では同じ症状の人が大勢います」と語る場面などが問題となり議論を呼んでいる。

 前述した場面は週刊ビッグコミックスピリッツ22・23合併号に掲載され、続く同誌24号では前町長の他、福島大学の荒木田岳准教授が実名で登場し「福島がもう取り返しのつかないほど汚染された」などの発言が描写された。

 これらの描写に対し、佐藤雄平福島県知事は「全体の印象として風評を助長するような内容で極めて残念」と批判、また大阪市での震災のガレキ焼却による健康被害の可能性も描写されていたため、大阪市からも抗議声明が発表された。

 一方で「美味しんぼ」原作者・雁屋哲氏は、「『美味しんぼ 福島の真実篇』最終回まで見てもらってから判断してほしい。内容は自分が福島を2年かけて取材して、すくい取った真実。誰かに都合の良い嘘を書けない」とブログで綴った。

 ビッグコミックスピリッツ編集部は、5月19日に発売された同誌25号に「美味しんぼ 福島の真実篇」最終・第24回を掲載。同時に今回の内容について各専門家からの批判や意見を10ページに渡り掲載した。

 編集部の見解も掲載し「今回の内容は不快に感じる方も多いと思い掲載すべきか検討したが、健康被害を感じても『気のせい』と片付けられ、『風評被害を煽るな』と言われ声を上げられなくなっている方がいることも事実。少数の声だから、因果関係が分からないからという理由でそうした声が取り上げられないのは誤りではないか、との雁屋氏の考えは世に問う意義があると思い掲載した」との旨を発表している。

 今回の問題で、まず考えなくてはならないのが「美味しんぼ 福島の真実篇」は騒動になった3話だけで構成されているわけではないという点だ。「美味しんぼ 福島の真実篇」は全24話の構成であり、問題となった最終3話に至るまでには、福島県内を地域ごとに主人公たちが訪れ、「放射線量の低い地域で作られた安全な食物まで、福島産だからという理由で食べてもらえない風評被害の現状がある」といった問題提起も行っている。

 おそらく雁屋氏が言いたかった「福島の真実」とは、福島と言っても地域や人々によって置かれている状況や立場、感じている不安は千差万別であり、少数の声まで含めもっと広く知られるべきだということではないだろうか。決して「福島の真実」=「福島は危険」という話ではないはずだ。

 最終3話で描写された場面・発言は、確かに科学的・医学的根拠は薄いだろう。事実、それによって悪戯に福島に住む人々を傷つけたことも否定できない。だがしかし、そこだけを見てすべてを判断していては、私たちはいつまでたっても福島の現状を知ることは出来ないのではないだろうか。(編集担当:久保田雄城)