年金問題、労働力不足、内需の縮小。日本が抱える問題は山積みだ。それに対して、メディアには「出生率が回復すれば問題は全て解決する」ような物言いが目立つ。まるで子どもが増えれば、労働力不足は解消され、内需は回復し、経済成長も叶うといわんばかりだ。しかしこの考え方が大きな問題をはらんでいることは、巧妙に隠されている。
もちろん、少子化が女性だけの問題ではないのは大前提。その上でやはり、女性の意志の問題は避けて通れない。少子化に影響を与えるのは具体的に、女性の大学進学率の向上、本人年収の高さ、都市での居住、またフルタイムでの就労である。好きな勉強をして学歴をつけ、都会に住み、社会的に重要な仕事に就く。このようなライフスタイルを選んだ女性が産む子供の数は、基本的には少なくなる。調査によって多少の差はあるものの、女性の社会進出が進めば進むほど、子どもが生まれる数は減っていく。
1946年の女性参政権付与、1975年の国際婦人年、1986年の男女雇用機会均等法。戦後の日本は、世界的な流れに沿って女性の社会進出を進めてきた。結果として多くの女性は高等教育を受けるようになり、仕事、結婚相手など、自分の人生を「自分の意志で」決めるようになった。少なくとも表面上は選択肢が増えたのである。
労働力不足の解消を目的として子どもを増やそうとしても、多くの女性の望むライフスタイルとのズレは解消できないだろう。女性が自分の意志で進学したり、都市に住んだり、働いたりすることを、誰も批判できないし批判すべきでもない。
選択の自由と少子化の解消、両方とも重要な問題である。だが「労働力不足」にあえぐ経済界にとっては、少子化の方が大事なのかもしれない。しかし将来の労働力を確保するために、女性の大学進学率やフルタイムでの就労率を引き下げるなどの反動的な政策をとって子どもを増やすことは現実的だろうか。そのような社会が果たして「豊かな社会」といえるだろうか。選択の自由を守りつつ、具体的な対策が求められている。