2013年、エンタメビジネスの行方

2013年01月09日 20:28

スマートフォンやタブレットが普及したことにより、エンターテインメント業界は今、凄まじいスピードで進化を遂げようとしている。インターネットを通じて展開することにより、エンターテインメントの可能性が多様化するとともに、世界の距離感が縮まり、日本国内のみならず、ワールドワイドなビジネス展開が可能となった。

 ゲーム業界やアニメ業界は早くから、海外にコンテンツを輸出し、ビジネス展開を積極的に繰り広げているのは周知のことだが、とくにゲーム業界に至っては、今や国内での消費量よりも圧倒的に多く、日本が1とするとヨーロッパが2、アメリカ3ぐらいの割合にものぼる。

 逆に音楽業界は、海外の市場では、まったくといってもいいほど立ち遅れている感がある。音楽業界が圧倒的に不利なのは、やはり言語の違いだろう。映画やテレビ番組などのビジュアル性の高いコンテンツは、吹き替えや字幕という古来からの手段がある。ところが音楽はそうはいかない。これまでにも多くの日本人歌手が海外進出を果たそうとしたが、大きな成果は上がっていない。日本語のヒット曲を英語に訳して歌ってみても、日本人がどうして英語で歌っているの? と思われるのがオチだ。そもそも、外国人がいくら日本語で歌っても訛りがあるように、日本人がいくら英語で歌っても、帰国子女でもない限り、訛ってしまうだろう。

 ところが2012年、この音楽業界にも大きな可能性を現す動きがあった。それは、今や国民的アイドルグループともいわれる「AKB48」で成功したビジネスモデルを、アーティストではなくアイドルグループという「コンテンツ」として輸出したことだ。「音楽」というくくりでは苦戦しても、それを「サブカル」というくくりに変えてしまうと、日本は途端に強くなる。

 考えてみれば、AKB48の仕掛け人である秋元康氏は作詞家でもあるが、テレビ番組などを手がける構成作家であり、敏腕プロデューサーでもある。人ではなく、コンテンツを売るのはお手の物。純粋な音楽業界人とはまた違った視点を持っているのだろう。

 また、ここでもこのビジネスを大きく後押ししているのはインターネットだ。しかも、音楽配信サイトではなく、YouTubeに代表される動画サイトが大きな牽引力となっている。違法ダウンロードなどの誤った使い方は論外だとしても、動画サイトはインターネットユーザーの過半数以上が利用するインフラのようなものだ。極端な話、YouTubeに存在しない時点で、その「音楽」は存在しないに等しいと判断されるくらいのニーズを獲得している。逆に、YouTubeというデータベースに存在することで、世界の垣根は取り払われるのだ。

 業界関係者の中には、こういった動画サイトの利用に際して「無料で公開してしまったら、その音楽は買ってもらえなくなる」と懸念する声もある。しかし、今やこの考え方は時代遅れといわざるを得ない。

 音楽に限らず、エンタメビジネスは「所有」から「共有」することにビジネスモデルが変容しつつある。消費者は「所有」することではなく、他人と「共有」することで一緒に盛り上がれること、共感できることに価値を感じ、それを求めるようになってきた。
 
 こういった市場のニーズの変化を無視して、旧来のモノの売り方を続けていても、その業界は縮小し続けるばかりだ。

 また、企業のブランディングも多様化している。例えば、アメリカのナビスコや、クラフトなどといった大手企業は、これまでのテレビCMを35%以上も減らした代わりに、ネットのコンテンツを数百本単位で増やし、数百万ダウンロードされることで、子供たちに直接アピールすることに成功している。コストパフォーマンスは、これまでの50~60倍ともいわれ、日本でもCMに費やす経費で、ブランディングのためのコンテンツ制作を行なう企業が増え始めている。

 今後の展開としては、企業が望むイメージをクリエイトする現在のスタイルからさらに進化して、企業がコンテンツを制作するのではなく、ブランディングを高めてくれるコンテンツに投資する動きにシフトしていくと見られている。テレビCMはお金を生まないが、コンテンツは当たればお金を生む。ブランディングを行ないつつ、投機的要素も狙うスタイルに変化していくだろう。

 ゲーム業界や映像業界はすでに世界のマーケットを視野に入れたソーシャルなビジネス展開に移行しつつある。そして、企業もそれを利用し始めている。スマートフォンやタブレットの普及で、ネット環境がさらに身近になった。ここ数年で、これらの動きはさらに加速するだろう。

 日本は海外に比べ、これらの動きに対して、一歩も二歩も遅れている感が否めない。日本独特の島国根性が邪魔をするのか、コンテンツを「シェアする」ことに対して異常なほどの拒否反応を示すことが少なくない。音楽業界はとくにその傾向があるのではないだろうか。

 しかしながら、海外ではAmazon.comやAppleがこぞってクラウド音楽サービスに力を入れ始めている。日本にも、レコチョクやMTIなどの音楽配信サイトがあるものの、従来のCDが単にデータにすり替わっただけのような商売を続けているようでは、いずれは巨大な流れに飲み込まれてしまうかもしれない。(編集担当:藤原伊織)